ダークエルフ(ドラウ)の由来は?北欧神話からD&D・ロードスまで

北欧神話で「闇のエルフ」を書き残したのは、13世紀の一冊の本だけです。
『指輪物語』を書いたトールキンの「暗いエルフ」は、悪者のことではありません。
そしてゲームのダークエルフの呼び名「ドラウ」は、スコットランドの北の島々で悪い精を指した言葉です。

地下に住み、肌が黒く、魔法にたけ、地上のエルフと敵対する。ゲームや小説でおなじみのダークエルフの姿は、ひとつの神話から一度にできたものではありません。神話の短い一文、作家の言葉づかい、ゲームの設定が、時代ごとに重なってできた姿です。ダークエルフ、そしてドラウは、どこから来たのでしょうか。

この記事で分かること

  • 北欧神話の闇のエルフは、ほとんど正体不明:地下に住み、真っ黒だと書かれただけで、ドワーフ(地下の小人)と同じものだという説が有力です。
  • トールキンの「暗い」は、光を見なかったという意味:肌の色でも善悪でもなく、どんな旅をしてきたかでエルフを分けた呼び名です。
  • 地下の悪の種族ドラウは、ゲームが作った:1970年代のゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』で生まれ、肌の色と悪の結びつきは、後に作り手自身が描き方を見直しました。

北欧神話:地下に住む、ピッチより黒いエルフ

ダークエルフという言葉のもとは、北欧神話の「デックアールヴ」(闇のエルフ)です。北欧神話は、スカンディナヴィアやアイスランドで語られてきた神々の物語で、その多くは13世紀のアイスランドで書き留められました。

デックアールヴが出てくるのは、アイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソンが1220年ごろにまとめた『散文エッダ』(神話を詩の作り方の手引きとして解説した本)です。そこでは、エルフが二つに分けて書かれています。「リョースアールヴ」(光のエルフ)はアールヴヘイムという国に住み、太陽よりも美しい。一方のデックアールヴは地の下に住み、見た目も性質も光のエルフとはまるで違い、ピッチ(木のやにを煮詰めた黒いもの)よりも黒い、と。

闇のエルフについて書かれているのは、ほぼこれだけです。光と闇のエルフという分け方は、より古い神話の詩を集めた『古エッダ』には出てきません。同じ『散文エッダ』には「スヴァルトアールヴ」(黒いエルフ)という呼び名もあり、その国にはドワーフが住むと書かれています。そのため、闇のエルフも黒いエルフも、結局は地下の鍛冶であるドワーフの別名ではないかという見方が強くなっています。光と闇の分け方そのものが、キリスト教の天使と悪魔の分け方から来たのではないかという説もあります。

北欧神話のドワーフが神々の宝を作る鍛冶だったことは、ドワーフとゴブリンの由来で詳しく書きました。

トールキン:「暗いエルフ」は、光を見なかったエルフ

イギリスの作家J・R・R・トールキンは、古い英語や北欧の言葉を研究する学者でもありました。彼は小説『ホビットの冒険』(1937年)と『指輪物語』(1954〜1955年)で、エルフを人間と同じ背丈の、美しく長生きする種族に描き直しました。その歩みはエルフはなぜ背が高く耳が長い?にまとめています。

トールキンも、北欧神話と同じく「光のエルフ」と「暗いエルフ」という言葉を使いました。ただし意味はまったく違います。トールキンの死後の1977年に出た神話物語集『シルマリルの物語』では、はるか西の神々の国へ渡り、そこに輝いていた「二つの木」の光を見たエルフを光のエルフと呼びます。旅に加わらなかった者、途中でとどまった者など、その光を見なかったエルフが暗いエルフです。

つまりトールキンの「暗い」は、肌の色でも心の悪さでもなく、どんな旅をしてきたかの違いです。『ホビットの冒険』に出てくる森のエルフも、西の国へ行かなかった古い一族の子孫として書かれ、物語では「悪い者たちではない」とはっきり断られています。『指輪物語』の旅の仲間の一人、弓の名手レゴラスの故郷は、この森のエルフの王国です。トールキンの作品には、地下に住む悪のエルフの種族は出てきません。エルフの敵の座にいるのは、闇の勢力の兵であるオークです。

D&D:地下の種族「ドラウ」が生まれた

今のダークエルフの姿を作ったのは、1974年にアメリカで生まれたゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)です。紙とサイコロと会話で遊ぶロールプレイングゲームの元祖で、遊ぶ人はエルフやドワーフといった種族を選んで冒険します。

最初は「伝説にすぎない」存在だった

ドラウが初めて名前を見せるのは、1977年に出た怪物図鑑『モンスター・マニュアル』のエルフの項です。そこでは、黒いエルフ、つまりドラウは「伝説にすぎない」とされ、地上のはるか下の不思議な世界に住み、妖精が明るいのと同じだけ暗い、悪い者たちだと噂されるだけでした。

はっきり姿を見せたのは、翌1978年の冒険シナリオ『炎の巨人王の館』(原題 Hall of the Fire Giant King)です。作者のゲイリー・ガイギャックスはここで、ドラウの歴史を書きました。昔、争いの絶えなかったエルフの中から、身勝手で残酷な者たちが地上を追われ、地下へ逃げた。それがドラウで、今も自分たちを追い出したエルフに恨みを抱いている。黒い肌に淡い色の髪、大きくとがった耳を持ち、暗闇でもよく目が見え、魔法に強い。同じ1978年に出た続きの冒険シナリオでは、地下の大空洞に築かれたドラウの都と、蜘蛛の女神ロルスに仕える女祭司が治める社会が描かれました。

名前は、北の島々の悪い精から

「ドラウ」は、スコットランドの北にあるオークニー諸島とシェトランド諸島の方言の言葉です。同じ地方で「トロウ」とも呼ばれる、さまざまな悪い精を指す呼び名でした。北欧神話の闇のエルフという考えに、北の島々の精の名前を付け、地下の帝国を持つまったく新しい種族に仕立てたのがD&Dです。

善良なドラウの主人公が、人気を広げた

ドラウを一気に有名にしたのは、作家R・A・サルヴァトーレが1988年に出したD&Dの小説『クリスタル・シャード』です。ここで、悪の都を捨てて地上へ出た善良なドラウ、ドリッズト・ドゥアーデンが登場します。ドリッズトは多くの続編の主人公になり、日本でも『アイスウィンド・サーガ』『ダークエルフ物語』として訳されました。「悪の種族に生まれた善い主人公」という形は、ここから広く知られるようになりました。

肌の色と悪の結びつきは、後に見直された

ドラウは長いあいだ、「肌が黒く、生まれつき悪い種族」として描かれてきました。これに対しては、現実の世界で肌の黒い人々に向けられてきた差別の考え方と重なるという批判が出ていました。一方で、製品によってドラウの肌の描かれ方は一定でなく、地下の不思議な種族として見る人もいれば、ゲームの中でまれな肌の黒い人物の姿として受け取る人もいて、受け止め方は分かれています。

2020年6月、D&Dを発売するウィザーズ・オブ・ザ・コースト社は、オークとドラウの描き方を改めると発表しました。最近の本ではオークとドラウを「ほかの人々と同じように、善悪の面でも文化の面でも複雑な存在」として描いており、今後の本でもその方針を続ける、という内容です。2021年には、遊ぶ人が選べる種族ごとに勧めていた善悪の傾向を、当時の版(第5版)のすべての本から外しました。同じ年に、基本のルールブックのドラウの説明も、地下世界と結びついた種族ではあっても、必ずしも女神ロルスに従う者ではない、という書き方に改められています。

2024年に出た新しいルールブック『プレイヤーズ・ハンドブック』では、エルフは暮らす土地の影響を受けて魔法の力を得たり姿が変わったりする種族とされ、ドラウは地下世界の影響を受けたエルフで、悪の女神に従うとは限らないものとして書かれています。

日本へ:ロードス島戦記のダークエルフ

D&Dは1985年に日本語版が出ています。D&Dで実際に遊んだ様子を読み物にした連載から生まれたのが、1986年に雑誌『コンプティーク』で始まった『ロードス島戦記』です。この連載には、すでに「ドロウ・エルフ」という名前でダークエルフが顔を出しています。

小説『ロードス島戦記』の世界では、ダークエルフは暗黒の島マーモの「闇の森」に住み、暗黒皇帝ベルドが率いるマーモ帝国の側に付いています。そのダークエルフの一人が、女性のピロテースです。ピロテースは1990年のアニメ(OVA)のために作られた人物で、作者が気に入って原作の小説にも取り入れられました。マーモの黒衣の将軍アシュラムに仕え、はじめは兄を死なせたアシュラムの命を狙いながら、やがて恋仲になります。主人公の戦士パーンとエルフのディードリットの組に向き合う、敵側の二人として作られた人物です。

悪の陣営に属していても、一人ひとりに心があり、誰かを深く想う。ここでのダークエルフは、悪の種族の一員としてではなく、一人の人物として描かれています。

今のダークエルフは、どこから来たか

ダークエルフの特徴どこから来たか
地下に住み、光のエルフと対になる北欧神話の『散文エッダ』
「暗い」エルフという呼び名を物語で使うトールキン(ただし意味は光を見なかったエルフ)
黒い肌、淡い色の髪、地上のエルフへの恨みD&Dの冒険シナリオ(1978年)
ドラウという名前スコットランドの北の島々の悪い精の呼び名
蜘蛛の女神と女祭司が治める地下の都D&Dの冒険シナリオ(1978年)
悪の種族に生まれた善い主人公サルヴァトーレの小説のドリッズト
生まれつき悪とは限らないD&Dの見直し(2020年以降)
敵側にいても、深い想いを持つ一人の人物日本の『ロードス島戦記』のピロテース

北欧神話の短い一文が残した「地下に住む、黒いエルフ」という手がかりに、ゲームが帝国と歴史を与え、小説が一人ひとりの心を与えました。そして描き方は、今も作り手の手で少しずつ書き直されています。

背界の旅団の、光と闇

私が制作したカードゲーム『背界の旅団』には、エルフの種族はいません。ただ、光と闇は属性として並んでいます。光の属性にはエンジェル(天使)が、闇の属性にはデーモンやアンデッド(死者の戦士たち)がいます。

『背界の旅団』のカード「第3位・座天使ソロネ」 『背界の旅団』のカード「デーモンの君主」
『背界の旅団』の光の属性の座天使ソロネと、闇の属性のデーモンの君主。光と闇を対にして世界を描くやり方は、北欧神話の光のエルフと闇のエルフの頃から続いています。App Storeで遊ぶ(無料)

ゲームの世界設定やカードは独自に作ったもので、各作品の公式作品・派生作品ではありません。詳しくは背界の旅団の公式サイトをご覧ください。

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参考資料

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