ギリシャ神話の巨人ギガースは、古い壺の絵では、鎧を着て槍を持つ人間の兵士の姿で描かれていました。
北欧神話の巨人は体が大きいとは限らず、神々と結婚し、主神オーディンにもその血が流れています。
そして英語の「ジャイアント」が「並外れて背の高い人」を指すようになったのは、1550年代からです。
山のように大きく、力が強く、どこか愚か。ゲームでは霜の巨人や炎の巨人のように、住む場所や属性で種類まで分かれています。けれど昔の巨人は、まず「神々に逆らう一族」でした。大きさも、愚かさも、属性も、別々の時代に別々の場所で付け足されたものです。ゲームの巨人の姿は、どこから来たのでしょうか。
この記事で分かること
- 巨人は、もとは神々の敵だった:ギリシャと北欧の巨人は、体の大きさより、神々と争う血筋として語られていました。
- 愚かな巨人は、民話の悪役から:人を食べるのに知恵で負ける巨人は、イギリスの「ジャック」の物語で定着しました。
- 霜・炎・雲の巨人は、ゲームが分けた:住む場所と属性で巨人を6種類に分けたのは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』です。
神々と戦った「大地の子」:ギリシャの巨人
「ジャイアント」という言葉のもとは、古代ギリシャ語の「ギガース」(複数形はギガンテス)です。ギリシャ神話のギガースは、天の神ウラノスが傷つけられたときに流れた血を、大地の女神ガイアが受けて生まれた一族でした。
ギガースたちは、ゼウスが率いるオリュンポスの神々と戦います。この戦いを「ギガントマキア」(巨人との戦い)といいます。予言では、ギガースは神々だけでは倒せず、人間の力を借りる必要がありました。そこで呼ばれたのが英雄ヘラクレスです。巨人は、神々の秩序に負ける側として生まれたのです。
姿も、時代とともに変わります。紀元前6世紀から5世紀の絵では、ギガースは鎧と槍を持った普通の人間の兵士として描かれていました。紀元前4世紀ごろからは、両足が大蛇になった怪物の姿で描かれるようになります。倒されたギガースは火山の下に埋められたとも語られ、シチリア島のエトナ山の噴火は、その下に眠る巨人エンケラドスが身動きするせいだとされました。巨人と火山、巨人と炎の結びつきは、ここまでさかのぼります。
ティーターンは「巨大」の代名詞になった
ギリシャ神話には、もう一つの強大な一族がいます。ウラノスとガイアの12人の子、ティーターン(英語ではタイタン)です。ティーターンはゼウスたちとの10年に及ぶ戦争に敗れ、地の底の牢獄タルタロスに閉じこめられました。
神話のティーターンは、体の大きさで語られる一族ではありません。それでも英語では1709年から、「タイタニック」が「とてつもなく大きい」という意味で使われるようになります。神々に逆らった古い一族の名前が、そのまま「巨大さ」を表す言葉になったのです。
世界は巨人の体からできた:北欧のヨトゥン
北欧神話(スカンジナビアやアイスランドに伝わる神話)の巨人は「ヨトゥン」と呼ばれます。名前は、「食べる」という意味の古い言葉とつながるという説があります。
ただしヨトゥンは、体の大きさで決まる種族ではありません。神々とは血のつながった別の一族という扱いで、神々の妻になった者もいれば、オーディンやトールのように巨人の血を引く神もいます。中には、オーディンと知恵比べをする賢い巨人までいました。
ユミル、霜の巨人、炎の巨人スルト
それでも北欧神話には、体から世界ができるほど大きな巨人が出てきます。13世紀のアイスランドでまとめられた神話の本『エッダ』では、世界の始まりの裂け目に、氷が溶けた雫から最初の巨人ユミルが生まれました。オーディンと二人の兄弟はユミルを殺し、その体で世界を作ります。肉は大地、血は海、骨は山、髪は木、頭蓋骨は空になりました。あふれた血で巨人たちはほとんど溺れ、生き残った一組の夫婦から一族が続きます。
ユミルの子孫は「霜の巨人」とも呼ばれます。もとの言葉は「霜」と「巨人」を合わせた語で、氷から生まれた一族らしい名前です。一方、南の炎の国ムスペルヘイムには、名前が「黒い者」を意味する炎の巨人スルトがいます。世界の終わりの戦い「ラグナロク」で、スルトは燃える剣を手に神々と戦い、世界を炎で焼き尽くします。霜の巨人と炎の巨人。属性を持った巨人の原型が、ここにそろっています。
「巨人」が大男になった:ゴリアテとネフィリム
「巨人」を「並外れて大きく力の強い人」の意味へ近づけたのは、聖書のギリシャ語訳です。旧約聖書をギリシャ語に訳したとき、背が高く力の強い人々を指す言葉に「ギガース」が使われました。
聖書の創世記には、ネフィリムという人々が出てきます。神の子らと人の娘たちのあいだに生まれた、昔の名高い勇士たちとされ、ギリシャ語訳ではこれも「巨人」と訳されました。民数記では、約束の地を偵察した者たちが、そこに住む大男たちを前に、自分たちがいなごのように小さく思えたと報告しています。
大きな巨人は、小さな者に負ける
聖書の巨人として名高いのが、ゴリアテです。ペリシテ人(イスラエルと争った民族)の代表の戦士で、身長は写本によって約2メートルとも約3メートルとも書かれています。重い鎧を着たゴリアテに、羊飼いの少年ダビデは石投げひもで石を放って額に当て、倒しました。英語の「ダビデとゴリアテ」は、今でも小さな者が大きな相手に挑む勝負のたとえです。大きな巨人が小さな者に倒される筋書きは、民話でもくり返されます。
人を食べるのに知恵で負ける:イギリスの民話
イギリスの伝説にも、巨人がたびたび登場します。12世紀に書かれた歴史物語『ブリタニア列王史』では、島には昔、巨人が住んでいたとされます。怪力の巨人ゴグマゴグも、最後は英雄に崖から海へ投げ落とされました。古い英語の詩では、ローマ人が残した石造りの廃墟が「巨人たちの仕事」と呼ばれています。トールキンが『指輪物語』の木の巨人エントの名前を取ったのは、この詩に出てくる巨人を表す古い英語からです。トールキンについてはエルフはなぜ背が高く耳が長い?で詳しく書きました。
ジャックが巨人を出し抜く
巨人を「愚かな悪役」にしたのは、ジャックという少年の物語です。1711年に小冊子で出た『ジャックと巨人たちの物語』では、アーサー王の時代のコーンウォール(イングランド南西の端)で、ジャックが巨人を落とし穴にはめて倒します。ある巨人には、服の下の袋を切り裂いて見せ、まねをさせて自分の腹を切らせました。力では勝てない相手を、知恵で負かすのです。
『ジャックと豆の木』は、1734年に初めて印刷されました。豆の木を登った先の城に住む巨人は人を食べ、「フィー・ファイ・フォー・ファム」と唱えて人間のにおいをかぎつけます。それでもジャックは、巨人が眠っているすきに金貨や金の卵を産むめんどりを盗み、最後は豆の木を切り倒して巨人を落とします。英語圏の巨人が「乱暴で頭の鈍い人食い」になったのは、こうした物語からです。
山と湖を作った巨人:日本のだいだらぼっち
日本にも、大きな巨人の伝説があります。関東や中部地方を中心に伝わる「だいだらぼっち」です。だいだら坊、大太法師(だいだぼうし)など、土地によって呼び名が変わります。
だいだらぼっちの話の多くは、山や湖ができた理由を語るものです。富士山を背負おうとした、赤城山に腰かけて立ち上がろうと踏ん張った足跡が沼になった、といった話が各地にあります。東京都世田谷区の代田(だいた)という地名も、この巨人がひとまたぎした足跡があったことから来たと伝えられています。
古い記録は、奈良時代の地誌『常陸国風土記』(今の茨城県の地理や言い伝えの記録)にあります。大昔、とても背の高い人が岡の上にいたまま、手を伸ばして海辺の貝を取って食べ、その殻が積もって岡になったと書かれています。この岡は、今も残る縄文時代の大串貝塚のこととされています。海から離れた場所に貝殻が山になっている理由を、巨人で説明したのです。
だいだらぼっちは、もとは天地を作った神としてあがめられていたと考えられています。信仰が薄れるにつれて、ただの力持ちの大男として語られるようになりました。人を食べたり、だまされて倒されたりする西洋の巨人とは違い、地形を作る大らかな存在です。
D&Dが巨人を、住む場所と属性で分けた
ばらばらに語られてきた巨人を種類ごとに整理したのが、1974年にアメリカで発売されたゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)です。紙とサイコロと会話で遊ぶロールプレイングゲームで、遊ぶ人は冒険者になって怪物と戦います。
最初の版にいた巨人は、丘の巨人、石の巨人、霜の巨人、炎の巨人、雲の巨人の5種類でした。1975年の追加ルールで、人里離れた場所にひそむ賢い嵐の巨人が加わり、6種類がそろいます。
- 丘の巨人:丘や谷に住む、いちばん小さく頭の鈍い乱暴者。
- 石の巨人:山の下のほら穴に住み、そっとしておけばおとなしい。
- 霜の巨人:凍てつく北の地に住み、力だけを重んじる戦士。
- 炎の巨人:火山に住み、金属を鍛える腕の立つ戦士。
- 雲の巨人:はるか上空でぜいたくに暮らす、誇り高い一族。
- 嵐の巨人:近づきにくい隠れ家に住む、賢く穏やかな予言者。
炎の巨人は、北欧神話のスルトのような巨人をもとにしています。私には、頭の鈍い丘の巨人はジャックの物語の巨人に、雲の上で暮らす雲の巨人は豆の木の先の城の巨人に、重なって見えます。1978年には、丘・霜・炎の巨人の本拠地へ順に攻め込む冒険の筋書きが3冊出て、巨人は「住む場所ごとに違う敵」として定着しました。
今の巨人は、時代の重ね描き
こうして見ると、今の巨人の姿は一つの神話から来たものではありません。それぞれの特徴に、生まれた場所があります。
| 巨人の特徴 | どこから来たか |
|---|---|
| 神々に逆らい、戦って敗れる一族 | ギリシャ神話のギガースとティーターン |
| 火山の下に眠る | ギリシャ神話のエンケラドス |
| 世界ができるほど大きな体 | 北欧神話のユミル |
| 霜の巨人と炎の巨人 | 北欧神話のヨトゥンとスルト |
| 並外れて背が高く、力が強い大男 | 聖書のネフィリムとゴリアテ |
| 人を食べるが、知恵で負ける | イギリスの民話のジャックの物語 |
| 山や湖を作る | 日本のだいだらぼっち |
| 住む場所と属性で種類が分かれる | ゲームの『ダンジョンズ&ドラゴンズ』 |
神々の敵として生まれた巨人は、聖書で大男になり、民話で知恵に負ける悪役になり、ゲームで霜や炎の種類に分かれて、今の姿になりました。
私が制作したカードゲーム『背界の旅団』にも、火・水・土・風の4つの属性それぞれにジャイアントのカードがあります。神々と戦い、山を作り、知恵比べに負けてきた巨人たちの長い歴史の先に、この4体もいます。ゲームの世界設定やカードは独自に作ったものです。詳しくは背界の旅団の公式サイトをご覧ください。
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