ドワーフとゴブリン、地下の精はなぜ英雄と敵に分かれた?

北欧神話のドワーフは、背が低いとは書かれていませんでした。
雷神トールの槌ミョルニルを作ったのは、そのドワーフの鍛冶です。
そしてゴブリンの仲間の「ホブゴブリン」は、もとは家事を手伝ってくれる良い精でした。

ドワーフとゴブリンは、どちらも昔から山や岩、洞窟や鉱山といった「地下」と結びついて語られてきた存在です。ところが今のゲームでは、ドワーフは髭をたくわえ斧を振るう頼れる職人の戦士、ゴブリンは群れで襲ってくる小さな敵。同じ地下の精が、どこで英雄と敵に分かれたのでしょうか。

この記事で分かること

  • ドワーフは神々の鍛冶だった:北欧神話では、神々の武器や宝を作る腕利きの職人でした。
  • ゴブリンは正体のはっきりしない小鬼だった:名前の由来は今も分からず、昔話ではいたずら者から子どもを脅かす怖いものまで、性格もばらばらでした。
  • 二つを分けたのはトールキン:小説『ホビットの冒険』で、ドワーフを旅の主人公たちに、ゴブリンを山に巣くう敵にしました。

ドワーフは、神々の宝を作る鍛冶だった

ドワーフ(dwarf)のもとは、北欧神話に出てくる「ドヴェルグ」です。北欧神話を伝える本『エッダ』では、ドヴェルグは大地や岩の中から生まれ、山や岩の中に住むとされています。日の光を浴びると石になってしまう話もあり、地下の存在だったことがよく分かります。

ドヴェルグのいちばんの特徴は、ものづくりの腕です。いたずら者の神ロキが、雷神トールの妻の髪を切ってしまったとき、ドヴェルグたちが代わりの金の髪を作りました。さらにロキとの賭けで、別のドヴェルグの兄弟が腕を競い、最後に作り上げたのがトールの槌ミョルニルです。最高神オーディンの槍グングニルも、狼の怪物フェンリルを縛った紐も、ドヴェルグの作です。

『背界の旅団』のカード「ドワーフ鍛冶職人」 『背界の旅団』のカード「ドワーフ巌窟王」
『背界の旅団』のドワーフ。神々の鍛冶の顔は、今も鍛冶職人のカードに残っています。App Storeで遊ぶ(無料)

ところが、その姿はあいまいにしか語られていません。「背が低い」とも、特には書かれていないのです。

ゴブリンは、名前も正体もはっきりしない小鬼だった

ゴブリン(goblin)という言葉は、14世紀の初めにフランス語から英語に入りました。もっと古い記録は1140年ごろのフランスにあり、教会から追い払われた悪い霊が、ラテン語で「ゴベリヌス」と呼ばれています。ただ、その先の由来は分かっていません。ギリシャ語のいたずらな精から来た説、人の名前から来た説などがありますが、どれも決め手がありません。

ヨーロッパの昔話では、ゴブリンは醜い小人の姿をした意地の悪い精です。森や洞窟に住み、大地や鉱山と結びつけて語られることも多く、ドイツの家の精コボルトが同じ仲間です。「ゴブリンが来るよ」と子どもを寝かしつける脅し文句にも使われました。

一方で、名前が似ているホブゴブリンは、イングランドの昔話の妖精ロビン・グッドフェローのことで、いたずら好きでも家事を手伝ってくれる良い家の精でした。ゴブリンの仲間は、悪者と決まっていたわけではないのです。

『背界の旅団』のカード「ゴブリン坑道兵」 『背界の旅団』のカード「ゴブリン根王」
『背界の旅団』のゴブリン。坑道で働く兵から、一族を率いる王まで。App Storeで遊ぶ(無料)

童話で、ドワーフは「小人」になった

ドワーフが「小さい人」になっていくのは、北欧神話より後の時代です。ドイツ語ではドワーフにあたる言葉を「ツヴェルク」と言い、日本ではよく「小人」と訳されます。いちばん有名なのは、グリム童話の「白雪姫」の7人の小人でしょう。彼らは山で鉱石を掘る仕事をしています。小さくなっても、地下と鉱山で働く職人という顔は、北欧神話のドヴェルグから変わっていません。

トールキンが、英雄と敵に分けた

二つの道がはっきり分かれたのは、イギリスの作家J・R・R・トールキンが1937年に出した小説『ホビットの冒険』です。トールキンは古い英語や北欧の言葉を研究する学者で、この物語では13人のドワーフが、竜に奪われた故郷の宝を取り戻す旅に出ます。彼らの名前の大半は、『エッダ』に並ぶドヴェルグの名前から取られました。魔法使いガンダルフの名前も、同じ一覧から来ています。

トールキンのドワーフは、採掘や金属の細工、石を刻む仕事に優れ、斧を得意の武器にします。頑固で、働き者で、受けた恨みを長く忘れない。髭と斧と坑道と頑固さという、今のドワーフらしさは、ここでほぼそろいました。神話の「神々の鍛冶」が、旅の仲間として読者に好かれる種族になったのです。

同じ物語で、霧ふり山脈の洞窟に住み、旅の一行を襲う悪い種族として登場するのがゴブリンです。続く『指輪物語』では、この種族は主に「オーク」と呼ばれるようになり、闇の勢力の兵として大軍で押し寄せます。地下に住むという点は同じでも、ドワーフは主人公の側に、ゴブリンは敵の側に置かれました。

トールキンが種族の型をどう作ったかは、エルフはなぜ背が高く耳が長い?で詳しく書きました。

ゲームで、その分かれ方が決まりになった

1974年に出たゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)は、紙とサイコロで遊ぶロールプレイングゲームの元祖です。遊ぶ人は自分の分身の種族を選べて、ドワーフは体の頑丈な種族として選ばれるようになりました。

ゴブリンは最初の版から「小さな怪物」として登場します。さらにD&Dでは、ゴブリン、ホブゴブリン、大柄なバグベアがまとめて「ゴブリンの一族」にされました。昔話では良い家の精だったホブゴブリンが、ここではゴブリンの親戚の戦士になっています。カードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』でも、ゴブリンは赤の小さなクリーチャーの代表で、深く考えずに数で押してくる種族として描かれています。

今のドワーフとゴブリンは、どこから来たか

特徴どこから来たか
ドワーフ:地下に住み、宝を作る鍛冶北欧神話
ドワーフ:背が低く、鉱山で働くグリム童話などの小人
ドワーフ:髭・斧・頑固な職人の戦士トールキン
ゴブリン:洞窟に住む意地の悪い小鬼ヨーロッパの昔話
ゴブリン:群れで襲ってくる敵の種族トールキン
ゴブリン:一族でまとまる小さな怪物D&Dなどのゲーム

同じ地下の精から始まった二つの種族は、神々の鍛冶と昔話の小鬼という出発点の違いを、物語とゲームが少しずつ広げて、今の英雄と敵の姿になりました。

背界の旅団では、同じ土の仲間

私が制作したカードゲーム『背界の旅団』では、ドワーフとゴブリンは同じ土の属性に並んでいます。合言葉は「倒れず、支える」。誰より打たれ強く、倒れず前線を支える者たちです。英雄と敵に分かれた二つの種族が、ここでは同じ大地の側に立っています。ゲームの世界設定やカードは独自に作ったものです。詳しくは背界の旅団の公式サイトをご覧ください。

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