エルフはなぜ背が高く耳が長い?指輪物語とファンタジーの基礎

エルフは、昔は人間よりずっと小さな妖精として描かれていました。
『指輪物語』を書いたトールキンは、エルフの耳がとがっているとは一度も書いていません。
そして「エルフといえば横に長い耳」という姿は、日本の小説の挿絵から広まりました。

森に住み、背が高く、美しく、長生きで、耳が長い。ゲームやアニメでおなじみのエルフの姿は、昔から決まっていたわけではありません。何人もの作り手が、少しずつ描き直してできた姿です。その始まりにいるのが、イギリスの作家J・R・R・トールキンと、彼の小説『指輪物語』です。

この記事で分かること

  • 小さな妖精が、気高い種族になった:エルフを人間と同じ背丈の、美しく長生きする種族に描き直したのはトールキンです。
  • ゲームが種族を「選べるもの」にした:トールキンの種族は、ゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』で、遊ぶ人が自分の分身として選ぶものになりました。
  • 長い耳は日本生まれ:横に長い耳は、日本の小説『ロードス島戦記』のエルフ、ディードリットの挿絵から定着しました。

昔のエルフは、小さな妖精だった

エルフという言葉は古く、北欧やイングランドの言い伝えにまでさかのぼります。ただ、トールキンより前のイギリスで知られていたエルフは、今の姿とはずいぶん違いました。

シェイクスピアの劇『夏の夜の夢』には、どんぐりの殻に隠れられるほど小さな妖精たちが登場します。この「小さくてはかない妖精」というイメージは19世紀まで続き、当時の挿絵では、とんがり帽子をかぶった小さな男女として描かれていました。耳の先が少しとがっていることはあっても、大きさは普通の耳です。

トールキンが、エルフを人間と同じ背丈にした

トールキンは1892年生まれの言語学者で、オックスフォード大学で古い英語を教えていました。1937年に子ども向けの物語『ホビットの冒険』を、1954年から1955年にかけてその続きとなる長い物語『指輪物語』を出版します。日本では瀬田貞二の訳が、1972年から1975年にかけて評論社から出ています。

この2つの物語で、トールキンはエルフを大きく描き直しました。人間と同じくらいの背丈で、背が高く、美しく、病気や老いでは死なない種族です。トールキン自身は手紙で、自分のエルフは「人間より芸術の才と美しさに恵まれ、ずっと長く生きる者」だと説明しています。小さないたずら好きの妖精が、ここで気高い種族に変わりました。

エルフだけでなく、種族の顔ぶれを作った

『指輪物語』では、指輪を捨てに行く旅の仲間に、人間、エルフ、ドワーフ(山の地下で石や金属を扱う頑固な種族)、ホビット(トールキンが作った、背の低い素朴な小人族)、魔法使いがそろいます。敵には、闇の勢力の兵として群れで襲ってくるオークがいます。どの種族かを聞くだけで、その人物の得意なことや性格が想像できる。この「種族ごとに役割がある」という形が、今のファンタジーの土台になりました。

ドワーフやオークの名前の由来は、ゴブリンとドワーフの由来とオーク・ハーピー・リザードマンの由来で詳しく書きました。

『背界の旅団』のカード「ドワーフ盾戦士」 『背界の旅団』のカード「オーク斧戦士」 『背界の旅団』のカード「ゴブリン坑道兵」
『背界の旅団』のドワーフ、オーク、ゴブリン。トールキンが形にした種族の顔ぶれは、今のカードゲームにも受け継がれています。App Storeで遊ぶ(無料)

言葉と地図と歴史まで作った

トールキンはエルフが話す言葉まで、文法から実際に作りました。地図も自分で描き、『指輪物語』の巻末には年表や家系図、言葉の解説まで付けています。架空の世界なのに、本物の歴史書を読んでいるような手触りがある。この作り方が後のファンタジーの手本になり、トールキンは「現代ファンタジーの父」と呼ばれています。

ゲームが、種族を「選べるもの」にした

1974年、アメリカで『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)というゲームが発売されました。コンピューターは使わず、紙とサイコロと会話で遊ぶゲームで、世界で最初に売り出されたロールプレイングゲームです。遊ぶ人はそれぞれ一人の登場人物になりきり、進行役が語る冒険に挑みます。

D&Dでは、遊ぶ人が自分の分身を作るときに、エルフやドワーフといった種族を選びます。種族によって、得意なことや苦手なこと、なれる職業がルールで決められています。トールキンの物語の中で性格として描かれていた種族の違いが、ゲームの中で遊ぶ人が選んで使う「性能」になったのです。

D&Dがどれだけトールキンから借りていたかは、名前にも表れています。最初の版には、トールキンが作った小人族がそのまま「ホビット」という名前で入っていました。「ホビット」という名前は商標として登録されていたため、のちの版では「ハーフリング」に改められます。作者のゲイリー・ガイギャックスは、長いあいだトールキンの影響を小さく語っていましたが、2000年のインタビューでは強い影響を受けたことを認めています。

日本へ:ロードス島戦記と、長い耳のエルフ

D&Dを日本に紹介した一人が、SF小説の翻訳家だった安田均です。1980年代の初めにD&Dを海外から取り寄せて遊び、1986年に仲間とゲーム制作集団のグループSNEを作りました。D&Dの日本語版は1985年に出ています。

グループSNEの代表作が『ロードス島戦記』です。最初は、D&Dで実際に遊んだ様子を読み物にした連載で、1986年に雑誌『コンプティーク』で始まりました。1988年には水野良の小説として出版され、1990年にはアニメにもなって大人気になります。

長い耳は、ここで生まれた

このロードス島戦記に登場するエルフの女性が、ディードリットです。挿絵を描いたデザイナーの出渕裕は、耳を横へ長く伸ばして描きました。1982年の映画『ダーククリスタル』に出てくる種族の耳から影響を受けたと、本人が語っています。それまでのエルフの耳は、普通の大きさで先だけが少しとがった形でした。日本のゲームやアニメで「エルフといえば横に長い耳」になったのは、ここからです。

今のエルフは、三つの時代の重ね描き

こうして見ると、今のエルフの姿は一人の作家が決めたものではなく、何度も描き直されてできています。

エルフの特徴どこから来たか
背が高く、美しく、長生きトールキンの『指輪物語』
種族を選んで、得意なことで戦うゲームの『ダンジョンズ&ドラゴンズ』
横に長い耳日本の『ロードス島戦記』の挿絵

その流れの先に、モンコレと背界の旅団

ロードス島戦記を生んだグループSNEは、1997年にカードゲーム『モンスター・コレクション』(モンコレ)を出しました。モンスターを召喚して軍勢を組み、地図の上の土地へ進んでいくゲームで、モンスターは種族ごとに違う戦い方を持っています。モンコレの世界については六門世界とは、進み方の仕組みはモンコレの進軍で解説しています。

私は1997年、小学5年生のときにモンコレに出会いました。私が制作したカードゲーム『背界の旅団』は、そのモンコレで遊んだ体験から生まれたものです。トールキンが作った種族と世界が、ゲームになり、日本に届き、モンコレを通って私の手元まで続いている。種族ごとに得意なことが違い、それが戦い方の違いになる『背界の旅団』の手触りも、同じ流れの先にあります。ゲームの世界設定やカードは独自に作ったもので、各作品の公式作品・派生作品ではありません。詳しくは背界の旅団の公式サイトをご覧ください。

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参考資料

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