ハーピーは美女だった?ゲームの6種族はどこまで本物の神話か

ハーピーは、いちばん古い詩では美しい髪の乙女でした。
半魚人の祖先は、人に文字を教えた海の賢者です。
いっぽうリザードマンには、神話の祖先がいません。

ゲームに出てくるモンスターの種族は、どれも大昔の神話からやって来たように見えます。けれど実際には、何千年も前の神話にさかのぼる種族もいれば、途中でまるで別の姿に変わった種族も、20世紀に生まれたばかりの種族もいます。ここではオーク、アント(巨大な蟻)、シーマン(半魚人)、リザードマン、ハーピー、バードマン(鳥人)の6つを、神話の古いものから新しいものへ、おおまかな順にたどります。

この記事で分かること

  • 半魚人は人の先生だった:古代バビロニアの神話には、海から上がって人に知恵を授けた半魚人がいます。
  • 美女が怪物に変わった:ハーピーを醜い鳥の怪物にしたのは、古代ローマの詩人です。
  • ゲームが生んだ種族もいる:リザードマンとバードマンは、20世紀の小説とゲームの中で育った新しい種族です。

半魚人:人に知恵を授けた、海の賢者

半魚人の祖先は、古代メソポタミアにまでさかのぼります。古代バビロニアの神話のオアンネスは、魚と人が合わさった姿で、昼は海から上がって人と語らい、文字や学問、家や神殿の建て方、法の作り方まで教えて、夜は海へ帰っていきました。半魚人は、もとは人を襲う怪物ではなく、文明の先生だったのです。

ギリシャ神話にも、海の神ポセイドンの息子で、上半身が人、下半身が魚のトリトンがいます。日本でも、人魚の肉を食べて800年生きたという八百比丘尼の伝説がよく知られています。

恐ろしい半魚人が出てくるのは20世紀です。1936年に出版されたH・P・ラヴクラフトの怪奇小説『インスマスの影』は、海の底から来て人間と交わる魚の顔の種族を描きました。ゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)にも、「海の悪魔」と呼ばれる獰猛な魚人が登場します。知恵を授ける賢者から、海から襲う怪物へ。半魚人は長い時間をかけて、正反対の顔を手に入れました。

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『背界の旅団』のシーマン。魔術書記と真珠王、知恵と魔法を受け継ぐ海の民です。App Storeで遊ぶ(無料)

ハーピー:美しい乙女が、醜い怪物になった

ハーピーは、ギリシャ神話のハルピュイアのことで、名前は「掠め取る者」という意味です。紀元前8〜7世紀ごろの詩人ヘシオドスは、ハルピュイアを、風のように速く飛ぶ、美しい髪の翼ある乙女として歌いました。名前は「嵐の速さ」と「速い翼」。虹の女神イリスの姉妹です。

姿が大きく変わるのは、古代ローマの時代です。詩人ウェルギリウスは叙事詩『アエネーイス』で、鳥の体に乙女の顔、鉤爪の手を持ち、飢えでやつれた醜い怪物としてハルピュイアを描きました。中世にはダンテの『神曲』の地獄にも登場します。今のゲームでおなじみの「女の顔をした鳥の怪物」は、このローマ時代の描き直しから来ています。

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『背界の旅団』のハーピィ。歌うハーピィと、ハーピィを率いるハーレクイン。App Storeで遊ぶ(無料)

アント:金を掘る巨大な蟻と、蟻から生まれた兵

巨大な蟻の話も、2500年ほど前からあります。紀元前5世紀のギリシャの歴史家ヘロドトスは、東の砂漠に犬より小さく狐より大きい蟻がいて、巣穴を掘るときに金の砂を掘り出す、と書き残しました。本人が見たわけではない、旅人から聞いた話です。

ギリシャ神話には、蟻が人に変わった話もあります。疫病で人がいなくなった島で、神ゼウスが蟻を人に変え、生まれた民がミュルミドンです。英雄アキレウスが率いる兵として知られ、蟻のように頑丈で、指導者に忠実な民とされました。数と規律と忠誠という、今の「蟻の種族」の性格は、ここですでにそろっています。

人を襲う巨大な蟻のイメージを広めたのは、1954年のアメリカ映画『放射能X』です。核実験の放射能で巨大になった蟻が人を襲う話で、その後D&Dにも巨大な蟻が登場しました。

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『背界の旅団』のアント。女王のマザー・アントと、働き手のワーカー・アント。App Storeで遊ぶ(無料)

オーク:名前は古く、種族はトールキン

オークという言葉は1000年以上前の古い英語にあり、ローマ神話で冥界を指す「オルクス」から来たと考えられています。古い英語の物語『ベーオウルフ』には、「冥界の死体」とも読める怪物の名前として一度だけ出てきます。ただ、それがどんな姿だったのかは分かりません。

この古い言葉を掘り起こし、種族にしたのが、イギリスの作家トールキンです。小説『指輪物語』で、オークは闇の勢力の兵として大軍で押し寄せる種族になりました。名前は古くても、群れで戦う種族としてのオークは、20世紀にトールキンが作ったものです。豚のような顔はD&Dが付け、その後のゲームではプレイヤーが率いる戦士の民としても描かれるようになりました。

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『背界の旅団』のオーク。オーク大族長とオーク斧戦士。App Storeで遊ぶ(無料)

リザードマン:神話の祖先がいない種族

リザードマン(トカゲ人間)には、はっきりした神話の祖先がいません。近いものとして、インドなどの神話に上半身が人で下半身が蛇のナーガがいますが、蛇の神霊で、今のリザードマンとは別物です。

爬虫類の人型の種族が生まれたのは、1920年代の冒険小説です。『英雄コナン』で知られる作家ロバート・E・ハワードは、1929年ごろの物語に、人に化ける「蛇人間」を登場させました。それがゲームのD&Dで、水辺に住み、鱗と尾を持つ種族として形になります。神話からではなく、小説とゲームの中で育った種族なのです。

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『背界の旅団』のリザードマン。竜騎兵と、リザードマンを率いるオーフェン。App Storeで遊ぶ(無料)

バードマン:名前の神話はないが、鳥と人の混ざった神は多い

「バードマン」という名前の種族が出てくる古い神話も、見当たりません。ただ、鳥と人が混ざった存在は世界中にいます。インドの神話のガルダは、神ヴィシュヌを背に乗せる神鳥で、仏教に入って迦楼羅(かるら)になりました。日本の天狗も、背に翼を持つ山の怪物です。もっとも天狗は、もとは中国で空を流れる流れ星を指す言葉でした。それが山で修行する山伏と結びつき、翼を持つ姿に変わっていきます。

こうした鳥と人の姿を、町や部族を持つ「種族」としてまとめたのは、主にゲームです。D&Dには1981年に、山に住む鳥の人型の種族や、天狗をゆるやかな手本にしたカラス頭の種族が加わりました。バードマンは、神々の鳥や天狗のイメージを受け継ぎながら、ゲームの中で生まれた種族です。

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『背界の旅団』のバードマン。翼将と風読師。App Storeで遊ぶ(無料)

6つの種族は、いつ生まれたか

種族いちばん古い姿今の姿を決めたもの
半魚人人に知恵を授けた海の賢者(古代バビロニア)20世紀の怪奇小説とゲーム
ハーピー美しい髪の翼ある乙女(古代ギリシャ)古代ローマの詩
アント金を掘る巨大な蟻、蟻から生まれた兵(古代ギリシャ)1950年代の映画とゲーム
オーク冥界にちなむ古い英語の名前トールキンの『指輪物語』
リザードマンなし(1920年代の小説の蛇人間)ゲーム
バードマンなし(近い存在にガルダや天狗)ゲーム

種族の名前や絵だけを見ると、どれも同じくらい古く感じます。けれど、何千年も前から姿を変えながら受け継がれてきた種族と、ここ100年で生まれた種族が、同じゲームの中に並んでいるのです。エルフ・ドワーフ・ゴブリンの話は、エルフはなぜ背が高く耳が長い?とドワーフとゴブリン、地下の精はなぜ英雄と敵に分かれた?で書いています。

背界の旅団では

私が制作したカードゲーム『背界の旅団』では、この6種族を3つの属性に分けています。

  • 火(オーク・アント):合言葉は「力で、押し切る。」誰より力が強い者たちです。
  • 水(シーマン・リザードマン):合言葉は「魔法を、つなぐ。」魔法の器を持って生まれ、呪文を重ねて戦います。人に知恵を授けたオアンネスに通じるところがあります。
  • 風(バードマン・ハーピィ):合言葉は「風よりも速く。」誰よりも速く、相手より先に動きます。「嵐の速さ」「速い翼」というハルピュイアの名前が、そのまま戦い方になっています。

ゲームの世界設定やカードは独自に作ったものです。詳しくは背界の旅団の公式サイトをご覧ください。

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参考資料

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