「ドラゴン」という言葉は、もともと大きな蛇のことでした。
北欧神話の有名な竜ファフニールも、翼のない蛇のような姿で語られていました。
そしてゲームでおなじみの竜の王「バハムート」は、もとは大地を支える巨大な魚の名前でした。
火を吐き、宝の山を守り、大きな翼で空を飛ぶ。ときには人と言葉を交わし、うろこの色で性格まで違う。ゲームやアニメでおなじみのドラゴンの姿は、最初からそろっていたわけではありません。蛇の怪物から始まった竜に、時代ごとに別の作り手が一つずつ特徴を描き足してきました。今のドラゴンの姿は、どこから来たのでしょうか。
この記事で分かること
- 竜はもともと蛇だった:ギリシャの「ドラコーン」は大蛇のことで、宝を守る番人の役目もこの頃からありました。
- 火と翼は、あとから付いた:火を吐く竜は中世の英語の詩に、翼と4本の足を持つ竜は13世紀の写本に出てきます。
- 色と性格は、ゲームが決めた:赤い竜は火、白い竜は冷気というように、色で吐く息と性格を分けたのは『ダンジョンズ&ドラゴンズ』です。
ドラゴンは、もとは「大きな蛇」だった
古代メソポタミア(今のイラクのあたり)の神話には、竜の祖先のように語られる存在がいくつもいます。バビロニアの創世神話『エヌマ・エリシュ』に出てくる女神ティアマトは、世界の始まりの海そのもので、嵐の神マルドゥクに倒され、その体を二つに裂いて天と地が作られました。ティアマトは今では巨大な竜や海蛇として描かれることが多いのですが、もとの神話には竜の姿だと言い切れる書き方はありません。一方、「怒れる蛇」という意味の名を持つムシュフシュは、蛇の胴と首に、ライオンの前足と鳥の後ろ足を持つ怪物として、神々のしるしに使われていました。
「ドラゴン」という言葉のもとは、古代ギリシャ語の「ドラコーン」です。意味は蛇、それも普通の蛇を超えた大蛇でした。語源は「はっきり見る」という動詞にさかのぼると考えられていて、相手をにらみつけて動けなくする、恐ろしい目を持つものという意味だったようです。この言葉がラテン語とフランス語を通って、13世紀に英語へ入りました。
宝を守る番人の役目は、ここから
ギリシャ神話のドラコーンには、すでに「宝の番人」の役目がありました。英雄イアソン(ギリシャ神話の船の冒険の主人公)が探した金の羊の毛皮は、一度も眠らない大蛇が守っていました。毛皮を手に入れるには、魔女メディアの薬と魔法で大蛇を眠らせるしかありませんでした。宝のそばで眠らずに見張る怪物という姿は、ここまでさかのぼります。
北欧の竜は、宝の上で人と話した
ゲルマンの人々(今のドイツやイギリス、北欧の祖先)の物語でも、竜は宝と深く結びついています。北欧神話と英雄伝説には、2つの有名な竜がいます。
一つは、世界を支える大樹ユグドラシルの根をかじり続ける竜ニーズヘッグです。名前は「下でかみつくもの」といった意味だと考えられ、死者の国の近くに住む、死と破壊の竜です。
もう一つが、ファフニールです。ファフニールは、もとはドワーフでした。呪われた黄金を手に入れるために父を殺し、その黄金を守るために竜の姿に変わります。古い言い伝えでの姿は翼のない、蛇のような長い体でした。英雄シグルズ(ドイツではジークフリート)は穴に隠れて下から剣を突き立て、ファフニールを倒します。おもしろいのは、致命傷を負ったファフニールがシグルズと言葉を交わすことです。ここに「宝に執着し、人と話す竜」がそろっています。
火を吐き、空を飛ぶ竜は『ベーオウルフ』から
『ベーオウルフ』は、古い英語で書かれた長い英雄詩です。作られた時期は8世紀から11世紀のあいだと幅があり、写本は1冊だけ残っています。後半では、王になった英雄ベーオウルフが、50年の治世の終わりに竜と戦います。
きっかけは、ある男が竜の住む地下の宝の山から金の杯を一つ盗んだことでした。目を覚ました竜は怒り、夜空を飛んで火を吐き、国を焼きます。ベーオウルフは若い家臣ウィーラーフの助けで竜を倒しますが、自分も深い傷を負って命を落とします。地下に住み、宝を集め、空を飛び、火を吐く。今のドラゴンの特徴の多くが、英語の文学ではこの詩で初めて一つの竜にそろいました。
中世ヨーロッパで、竜に翼と足が生えた
キリスト教が広まると、竜は悪魔や異教の象徴になりました。それをよく表すのが、聖ゲオルギウス(英語ではセント・ジョージ)の竜退治です。1260年代にまとめられた聖人の物語集『黄金伝説』では、リビアの町シレナの近くに住む竜が、毒で辺りを汚し、羊を、やがてくじで選んだ人をいけにえに求めます。王の娘が選ばれたとき、騎士ゲオルギウスが槍で竜を傷つけ、王女の帯でつないで町へ連れて行き、人々はキリスト教を受け入れます。竜退治の絵は11世紀にはもう描かれていて、馬に乗った騎士が足元の竜を槍で突く構図は、何百年も描き継がれました。
今の形の竜が、写本に現れる
見た目も、この頃に今の形へ近づきます。1260年ごろのイギリスの写本には、2対の翼と2対の足を持つ竜が描かれています。今の私たちが思い浮かべる「4本の足に翼」の西洋の竜の、早い例です。中世の終わりには紋章の世界で、4本足のものを「ドラゴン」、2本足に翼のものを「ワイバーン」と呼び分けるようにもなりました。
東洋の龍は、まったく別の生き物
同じ「りゅう」と呼んでも、中国の龍はヨーロッパの竜とはほとんど正反対の存在です。長い蛇のような体に4本の足、角とひげを持ち、全身がうろこに覆われています。多くは翼を持たないのに、空を自由に飛びます。
龍がつかさどるのは火ではなく水です。ふだんは水の中にひそみ、春分に天へ昇って秋分に淵へ潜み、雨を降らせるとされました。川や海と結びつき、田畑に雨を必要とする人々にとっては、幸せを運ぶ善い神でした。そのため龍は皇帝の象徴にもなり、元の時代からは、爪が5本の龍を皇帝だけが使えるようになります。許しなく使えば、死罪にもなりました。
悪の象徴として騎士に退治される西洋の竜と、雨を恵み皇帝を表す東洋の龍。日本語ではどちらも「竜」と書くため混ざりがちですが、出自も役割も違う生き物です。
スマウグ:宝の山で眠り、しゃべる賢い竜
ここまでの竜を一つにまとめ上げたのが、イギリスの作家J・R・R・トールキンです。『指輪物語』の作者で、大学で古い英語を教え、『ベーオウルフ』の研究者としても知られていました。トールキンについてはエルフはなぜ背が高く耳が長い?で詳しく書きました。
1937年の子ども向けの物語『ホビットの冒険』に出てくる竜スマウグは、ドワーフの王国を奪い、その地下で黄金と宝石の山の上に寝そべっています。体は宝石のうろこで固く守られていますが、腹に一か所だけ、むき出しの場所があります。
スマウグの特徴は、何より賢く、よくしゃべることです。宝を盗みに来た主人公ビルボと、礼儀正しいふりをしながら探り合いの会話をし、言葉で相手の心をゆさぶります。この会話はファフニールとシグルズのやりとりに、宝の杯を一つ盗まれて怒り狂う場面は『ベーオウルフ』の竜に、よく似ています。名前も、北欧の古い言葉の「穴をすり抜ける」という動詞から取られています。トールキンは研究していた古い竜たちを、一匹の忘れられない竜にまとめたのです。
D&Dが竜に色を付け、日本のゲームへ
1974年、アメリカで紙とサイコロで遊ぶロールプレイングゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)が発売されました。名前のとおり、竜はこのゲームの主役級の怪物です。D&Dの竜は賢く、言葉を話し、年を経た竜は魔法まで使います。
D&Dが新しく加えたのが「色」です。最初の版から、赤・青・緑・黒・白の5色の竜がいて、色ごとに吐く息が違いました。赤は火、青は稲妻、緑は毒の気体、黒は酸、白は冷気です。この5色の竜はどれも悪い竜です。1975年の追加ルールでは、金・銀・真鍮・青銅・銅の金属の色をした善い竜と、その長である白金の竜バハムートが加わりました。悪い5色の竜を束ねる女王には、ティアマトの名が付けられています。古代の海の女神が、何千年もたって、色とりどりの頭を持つ竜の女王になったのです。
竜王とバハムート
D&Dの遊び方を取り入れた日本のゲームにも、竜は欠かせない存在になりました。1986年のファミコン用ソフト『ドラゴンクエスト』では、最後の敵「竜王」が、主人公に味方になれば世界の半分をやろうと持ちかけ、戦いの途中で巨大な竜の正体を現します。人と話し、取り引きを持ちかける竜です。
1987年の『ファイナルファンタジー』では、竜の姿をしたバハムートが登場し、主人公たちをより強い職業へ導きます。バハムートは、もとはイスラムの伝承で大地を支える巨大な魚の名前です。その名を竜に使ったのはD&Dが先で、日本のゲームがそれを受け継ぎました。
今のドラゴンは、時代の重ね描き
こうして見ると、今のドラゴンの姿は一つの神話から来たものではありません。それぞれの特徴に、生まれた場所があります。
| ドラゴンの特徴 | どこから来たか |
|---|---|
| 大きな蛇の体、恐ろしい目 | 古代ギリシャのドラコーン |
| 眠らずに宝を見張る | ギリシャ神話の金の毛皮の番人 |
| 宝に執着し、人と話す | 北欧のファフニール |
| 火を吐き、夜空を飛ぶ | 英語の詩『ベーオウルフ』 |
| 4本の足と翼、騎士に退治される悪 | 中世ヨーロッパの写本と聖ゲオルギウスの伝説 |
| 翼なしで空を飛び、雨を呼ぶ善い神 | 中国の龍 |
| 宝の山に寝て、賢くしゃべる | トールキンのスマウグ |
| 色で吐く息と性格が違う | ゲームの『ダンジョンズ&ドラゴンズ』 |
| 竜王、竜のバハムート | 日本のゲーム(D&Dから) |
蛇の怪物から始まった竜は、宝を守る番人になり、火と翼を手に入れ、言葉と知恵を持ち、最後にゲームで色分けされて、今の姿になりました。
背界の旅団では、大地そのものが竜の背中
私が制作したカードゲーム『背界の旅団』では、竜はもっと大きな存在です。この世界の大地は、眠る巨竜の背中。人々はその背に国を築き、一族の旗を掲げて、旅団長どうしの戦いを重ねてきました。大地の下に巨大な生き物がいるという発想は、大地を支える魚バハムートの伝承にも通じます。
カードには、火・水・土・風の4つの属性それぞれにドレイクと、名前に「背界」を冠した竜たちがいます。宝を守り、火を吐き、空を飛んできた竜たちの長い歴史の先で、『背界の旅団』の竜は足元の大地として眠っています。ゲームの世界設定やカードは独自に作ったものです。詳しくは背界の旅団の公式サイトをご覧ください。
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