モンコレのウィンド・カッターは、ダメージの量を数えない呪文でした。
相手が飛行タイプであれば、どれほど大きな竜でも、1枚で倒れます。
しかも、相手が何かを宣言した後に割り込んで使うこともできました。
1997年に出た国産のカードゲーム『モンスター・コレクション』(モンコレ)には、飛行タイプのモンスターがたくさんいました。飛行タイプなら地図の上を斜めにも進め、敵の脇へ回り込めます。その飛行タイプの強さを、たった1枚で打ち消すのが風のスペル、ウィンド・カッターです。なぜこのカードは、相手の属性を見ただけで飛行タイプのモンスターを出すのをためらわせたのか。最初の1枚から後の版での変化、そして私が制作したゲームでの受け継ぎ方までたどります。
この記事で分かること
- 数字を見ない呪文だった:飛行タイプのモンスター1体を、生命の大きさに関係なく倒しました。
- どの時機にも使えた:自分から使う時にも、相手の宣言に割り込む時にも使えたので、防ぐ時機がありませんでした。
- 版が進むと、少しずつ弱くなった:倒す呪文から、飛行タイプに多く効くダメージの呪文へと姿を変えていきます。
最初のセットにいた、風の主力スペル
モンスターコレクションは、ゲーム制作集団のグループSNEが作り、1997年9月に富士見書房から発売されたトレーディングカードゲームです。カードで地形を並べて地図を作り、その上でモンスターの部隊を進めて戦います。モンスターには火・水・土・風などの属性があり、戦いの中で使う魔法「スペル」にも属性があります。
ウィンド・カッターは、この最初の基本セットに入っていた風の戦闘スペルです。効果は短く、「飛行/長距離飛行」のユニット1体を【竜巻】によって死亡させる、というものでした。ユニットはモンスターのこと、【竜巻】はダメージの種類の名前です。ダメージがいくつ、という数字は書かれていません。対象が飛行タイプであれば、それだけで倒れます。
パックからの出現頻度は「頻繁」とされる、よく出るカードでした。風の属性で遊ぶ人なら、ほとんど全員がデッキに3枚入れていた1枚です。
飛行タイプは、それだけで強かった
モンコレのモンスターは、進み方を表す「進軍タイプ」で3種類に分かれます。「歩行」「飛行」「長距離飛行」です。歩行タイプのモンスターが進めるのは、縦か横に隣り合った土地だけでした。飛行タイプのモンスターは、そこに斜めが加わり、8方向へ進めます。長距離飛行タイプは、さらに遠くまで進めました。
斜めに進めると、敵の部隊の正面を避けて、脇から本拠地「本陣」を狙えます。歩行タイプの部隊は、地図の上で敵とぶつかる場所が読みやすい。飛行タイプの部隊は、どこから来るかが読みにくい。モンコレの進軍の面白さはモンスターコレクションの進軍とは?で書きましたが、飛行タイプはその地図の上での自由を広げる力でした。
ウィンド・カッターは、その自由の代償として作られたカードです。飛行タイプなら敵陣の脇まで届く。ただし、風の呪文1枚で落とされる。大きな竜であっても例外ではありませんでした。
普通の時にも、対抗の時にも使える
ウィンド・カッターの怖さを大きくしていたのが、使う時機です。このカードは[普通/対抗]のスペルでした。
普通と対抗とは
モンコレの戦いでは、カードを使う時機が2つに分かれています。[普通]は、自分の行動として何かを始めるときに使える時機です。[対抗]は、相手が何かを宣言したときに、それへ割り込んで使える時機です。宣言は積み重なり、最後に出したものから効いていきます。この応酬の仕組みはモンコレの魅力は対抗合戦で詳しく書きました。
[対抗]だけの呪文なら、相手が何も宣言しなければ使えません。[普通]だけの呪文なら、自分から動ける時機を待たなければなりません。両方で使えるウィンド・カッターは、どちらの時機にも使えました。飛行タイプのモンスターが何かを宣言すれば、それに割り込んで落とす。何もしなければ、こちらから落としにいく。飛行タイプのモンスターを戦いに出した時点で、いつ落とされてもおかしくない状態になります。
相手が風なら、飛行タイプを出すのをためらう
私は1997年、小学5年生のときにモンコレに出会いました。相手のデッキが風だと分かると、飛行タイプのモンスターを出すのを用心しました。風なら、ウィンド・カッターが入っているかもしれない。手札に握られていたら、自慢の竜が1枚で消えてしまいます。
カードは、使われた時だけ働くわけではありません。相手の手札にあるかもしれない、と思わせるだけで、こちらの選び方を変えます。ウィンド・カッターはよく出るカードだったので、風の相手が持っている見込みは高い。だから、相手の属性を見ただけで、飛行タイプを戦いに出すかどうか迷うことになりました。1枚のスペルが、相手の属性そのものを警戒の合図にしていたのです。
反対の向きのカードもありました。土のスペル「クラック」は、歩行タイプのモンスターすべてに【地震】のダメージを与えます。風は飛行タイプを落とし、土は歩行タイプを揺らす。どちらも、属性を知った瞬間に、相手が自分の部隊の進み方を見直すきっかけになっていました。
版が変わると、倒す呪文からダメージの呪文へ
ウィンド・カッターは、その後も何度も作り直されました。[普通/対抗]という使う時機は、どの版でも変わっていません。変わったのは、効き方です。
2000年:モンスター・コレクション2
2000年9月から展開された改訂版の基本セット『モンスター・コレクション2』では、カードに「使用条件:風」という欄が加わりました。パーティの中に、風のスペルを使えるモンスターがいなければ使えない、という意味です。対象はユニット1体で、そのユニットが飛行タイプか長距離飛行タイプなら【竜巻】で死亡させる、という書き方です。飛行タイプでない相手に使えば、何も起きません。中身は最初の版と同じ、飛行タイプを落とす呪文のままでした。2001年の『魔法帝国の興亡』にも同じ文で収録されています。
2008〜2009年:10周年の時期
発売元が変わった2008年からの『神霊獣の咆哮』『樹界霊の歌姫』、2009年の『英雄王の星誕』にも収録されました。効果は同じく死亡です。この時期まで、ウィンド・カッターは「飛行タイプであれば倒れる」カードであり続けました。
2013年:ダメージに変わる
2013年12月の『不滅なる聖騎士』で、初めて大きく変わります。対象は敵のユニット1体に限られ、飛行タイプか長距離飛行タイプなら【竜巻】の5ダメージ。死亡させる効果ではなくなり、生命の大きなモンスターなら耐えられるようになりました。
2017年:飛行タイプでない相手にも当たる
20周年を記念した2017年3月の『太陽の金の竜姫』では、サイコロ1個分の【竜巻】ダメージを与え、対象が飛行タイプであればさらに2増える呪文になりました。飛行タイプでない相手にも当たる代わりに、飛行タイプを確実に落とす力は失われています。
強すぎる1枚は、遊ぶ人の選択肢を狭めることがあります。飛行タイプのモンスターが増えるほど、1枚で倒す呪文の重みは増していきます。版を重ねるごとに、ウィンド・カッターは「飛行タイプに多く効く」くらいの位置へ下りていきました。
ウィンド・カッターの変化を並べると
| 時期 | ウィンド・カッターの姿 |
|---|---|
| 1997年 最初の基本セット | 飛行タイプのユニット1体 → ダメージの量に関係なく死亡させる |
| 2000年 モンスター・コレクション2 | 「使用条件:風」の欄が加わる → 飛行タイプでない相手には効かない書き方に |
| 2008〜2009年 10周年の時期 | 表記を新しいルールに合わせる → 死亡させる効果のまま |
| 2013年 不滅なる聖騎士 | 死亡させる → 飛行タイプの敵1体に5ダメージ |
| 2017年 太陽の金の竜姫 | 飛行タイプだけを狙う → 誰にでも当たり、飛行タイプには多く効く |
形は変わっても、[普通/対抗]の時機と、飛行タイプに強いという性格は残りました。ウィンド・カッターが記憶に残ったのは、倒されたときの痛さより、その前の迷いのほうです。風の相手を前に、翼のあるカードを手に取っては戻す。その迷いを、1枚のスペルが生み出していました。
背界の旅団のバックウィンド
私が制作したカードゲーム『背界の旅団』は、そのモンコレで遊んだ体験から生まれたものです。『背界の旅団』には飛行タイプという仕組みがなく、ウィンド・カッターと同じ働きのカードもありません。それでも、相手が風だと分かったら用心してほしい。そう考えて入れたのが、風の魔法「バックウィンド」です。
最後尾を狙う風
『背界の旅団』の戦いでは、自分のパーティ(戦いに出る部隊)を一列に並べます。攻撃のダメージは先頭から受けるので、後ろにいるほど長く生き残ります。そして勝ち負けを決めるのは、軍を率いる大将「旅団長」です。相手の旅団長をすべて倒せば勝ちなので、旅団長は隊列の最後尾に置くのが基本になります。アプリのおすすめの並びも、旅団長を最後尾にします。
バックウィンドは、その最後尾を狙う魔法です。魔力1で、自分から使う[普通]の時機に、相手パーティの最後尾の1体へ2ダメージを与えます。先頭の壁を飛び越えて、いちばん守られているはずの旅団長に風が届くのです。
倒す呪文ではなく、迷わせる呪文
2ダメージは、大きな旅団長なら耐えられる量です。ウィンド・カッターのように、どんな相手でも1枚で消す力はありません。ただ、生命力の小さなモンスターを旅団長にしていれば、この1枚で倒れることもあります。そしてバックウィンドは魔力1と軽く、よく出るコモンです。風の相手なら持っている見込みが高い。
だから、相手が風だと分かったら考えてほしいのです。旅団長を最後尾に置いたままでいいのか。生命力の小さな旅団長を、このまま戦いに出していいのか。後ろなら安全、という決まりごとを1枚の風が揺らします。ウィンド・カッターが飛行タイプを出すのをためらわせたように、バックウィンドには旅団長の置き場所を迷わせる役を持たせました。
風にはもう1枚、同じ最後尾の1体へ3ダメージを与える「バックウィンド・ツー」もあります(1.5.1から。それまでの版では、先頭の1体へ3ダメージを与える「風切りの刃」でした)。こちらは魔力2で、[普通/対抗]の両方で使えます。相手の手番にも、最後尾へ風が届くということです。風の相手と戦うときは、旅団長の生命力を3より多く残せるかまで考えることになります。
ゲームの世界設定やカードは独自に作ったもので、モンコレの公式作品・派生作品ではありません。詳しくは『背界の旅団』の公式サイトをご覧ください。
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