モンコレの大砂蟲は、攻撃力も防御力も10ある、砂漠の巨大な蟲です。
道の地形なら、戦場のどこへでも一度に進めました。
ただし道を外れて進むときは、手札をすべて捨てなければなりませんでした。
1997年に出た国産のカードゲーム『モンスター・コレクション』(モンコレ)には、竜や巨人、魔王がたくさんいました。その中で、砂の中を進む1匹の蟲が、なぜ強く記憶に残るカードになったのか。答えは数字の大きさだけでなく、その数字を使うために払う「代償」にあります。最初の1枚から、後の版での変化までたどります。
この記事で分かること
- 数字が桁違いだった:最初のセットで、レベル8・攻撃力10・防御力10。出現頻度は「極稀」の1枚でした。
- 道なら地図を無視できた:ふつうは隣の土地にしか進めないのに、道の地形ならどこへでも現れることができました。
- 食べるものが変わっていった:「大喰らい」という能力は版ごとに姿を変え、手札から山札へと食べるものが移っていきます。
最初のセットにいた、極稀の巨大な蟲
モンスターコレクションは、ゲーム制作集団のグループSNEが作り、1997年9月に富士見書房から発売されたトレーディングカードゲームです。カードで地形を並べて地図を作り、その上でモンスターの部隊を進めて、相手の本拠地「本陣」を目指します。
大砂蟲は、この最初の基本セット『モンスター・コレクション』に入っていた1枚です。属性は火、種族は「ウォーム」(ミミズのような長い蟲の仲間)。レベルは8で、攻撃力は10、防御力も10。歩いて進むモンスターで、絵は米田仁士が描いています。パックからの出現頻度は「極稀」とされる、めったに出ないカードでした。
モンコレのレベルは強さの目安であり、土地の中で場所をどれだけ取るかを表す数字でもあります。土地ごとに、いられるモンスターのレベルの合計の上限「リミット」が決まっているからです。本陣のリミットは10。大砂蟲を本陣に置けば、それだけで8を使い、残りはわずか2です。1枚で部隊の大半を占める、文字どおりの巨体でした。
道なら、地図のどこへでも現れる
モンコレでは、部隊を動かすことを「進軍」と呼びます。歩くモンスターが進めるのは、縦か横に隣り合った土地だけ。一歩ずつ地図を進み、相手の本陣へ近づいていくのがふつうの戦い方です。進軍の仕組みはモンスターコレクションの進軍とは?で詳しく書きました。
大砂蟲は、この決まりを破りました。能力「砂漠の主」によって、戦場にある「道」か「代理地形」なら、どこにでも進軍できたのです。
道と代理地形とは
「道」は最初のセットからある地形カードで、リミットは8。デッキに何枚でも入れられる、ありふれた土地です。「代理地形」は、手元に地形カードがないときに、山札のいちばん上のカードを裏向きのまま置いて土地の代わりにしたものです。リミットは8で、効果は何もありません。
つまり、地図に道を敷いたり、裏向きのカードを置いたりしておけば、大砂蟲はそこへ砂の下を通って一気に現れます。リミット8の道には、レベル8の大砂蟲がちょうど1体で収まります。遠くに置かれた何の変哲もない土地が、突然、攻撃力10の怪物の出口になる。相手からすれば、どこから来るか読めない脅威でした。
道を外れれば、手札をすべて食べる
ただし、大砂蟲にはもう一つの能力がありました。「大喰らい」です。道か代理地形以外の土地へ進軍するときは、自分の手札をすべて捨てなければなりません。森や山へ一歩踏み出すだけでも、代償は手札全部です。
手札は、戦いで使う魔法や、戦いの最中に手札から呼び出す援軍の元手です。進軍の先に敵がいれば、手札を捨てたその足で戦いが始まります。魔法も援軍もなく、攻撃力10と防御力10という素の数字だけで殴り合うことになるのです。
モンコレの手札は、毎ターン6枚になるまで山札から引き直します。捨てた分はやがて戻ってきますが、そのぶん山札は早く減ります。そしてモンコレは、山札が尽きたら領土の取り合いの結果で勝敗を決めるゲームでした。
道の上では自由自在の「砂漠の主」。道を外れると何もかも飲み込む「大喰らい」。1枚のカードに、大きな力と大きな代償が並んで書かれている。どこまでを道で行き、どこで手札を差し出すか。大砂蟲を出した人は、地図を見るたびにその判断を迫られました。数字の大きさより、この迷いこそが大砂蟲を忘れられない1枚にしていました。
大きな蟲のまわりの、小さな仲間と天敵
最初のセットには、大砂蟲の砂漠の旅を支えるカードもありました。火の属性の「サンド・ウォーム」は、レベル3の小さな砂の蟲です。この蟲と一緒に進軍する火か風のモンスターは、戦場の道か代理地形の一つへ進めます。儀式スペル(条件を満たすと使える大きな魔法)の「シルクロード」は、道の上にいる自軍のモンスターに、もう一度進軍する機会を与えました。道を敷き、道を伝って攻める。大砂蟲は、そんな戦い方の頂点にいたカードです。
一方で、天敵もいました。土の属性の「トンネル・モール」は、レベル2のモグラです。その能力「ミミズ喰らい」は、ウォームのモンスター1体を倒すというもの。攻撃力10の巨体でも、小さなモグラに食べられてしまう。大喰らいの蟲が、今度は食べられる側に回る組み合わせが、最初のセットの中に用意されていました。
版が変わっても、大喰らいは残った
大砂蟲は、その後も何度も作り直されました。レベル8、攻撃力10、防御力10という数字は、どの版でも変わっていません。変わったのは、大喰らいが食べるものです。
2000年:モンスター・コレクション2
2000年9月から展開された改訂版の基本セット『モンスター・コレクション2』にも、大砂蟲は再び収録されました。能力の書き方は新しいルールに合わせて整えられましたが、中身は同じです。道と代理地形へは自由に、それ以外へは手札すべてを代償に進みます。
2009年:本陣に入れない巨体
2009年8月のセット『英雄王の星誕』では、種族が「モンスター」に変わり、能力も作り直されました。大喰らいは、手札を捨てる代償ではなく「自軍の本陣にいられない」という制限になります。その代わり、自分の領土にある道へ、直接召喚できるようになりました。後攻の最初の番から、いきなり前線に巨体を置くこともできます。
2012年:山札を食べて、強くなる
2012年5月のセット『サーガランドの貴公子』の大砂蟲は、道か代理地形へ進軍できる能力を、代償なしで持っています。そして大喰らいは、戦いの最初に山札の上から1〜4枚を捨ててよい、という能力になりました。捨てたカードに道が1枚でも含まれていれば、攻撃力と、先に攻撃する順番を決める「イニシアチブ」が、それぞれ4上がります。手札を奪う罰だった大喰らいが、山札を食べて力に変える賭けになったのです。同じ能力のカードは、プロモーションカードとしても配られました。
2017年以降:大喰らいの名が消える
20周年を記念した2017年3月のブースターパック『太陽の金の竜姫』と、2019年5月の『モンスター・コレクションDeus』でも、大砂蟲は登場します。数字は同じですが、大喰らいという能力の名はなくなりました。山札を1枚捨てて手札から召喚する、遠くから現れるような能力などが加わり、砂漠を自在に進む巨大な蟲という姿だけが受け継がれています。
カードの外でも、大砂蟲は顔を出しています。モンコレで対戦する少年少女を描いた漫画『モンコレキッズ』では、主人公のライバルの少年が、この大砂蟲を相棒にしていました。
大砂蟲の変化を並べると
同じ数字のまま、大砂蟲の「代償」は次のように変わってきました。
| 時期 | 大砂蟲の姿 |
|---|---|
| 1997年 最初の基本セット | 道と代理地形へはどこへでも → 道を外れると手札すべてを食べる |
| 2000年 モンスター・コレクション2 | 書き方を新しいルールに合わせる → 中身は同じ |
| 2009年 英雄王の星誕 | 手札を食べる代償 → 本陣にいられない制限と、道への直接召喚 |
| 2012年 サーガランドの貴公子 | 手札を奪う罰 → 山札を食べて攻撃力とイニシアチブを上げる賭け |
| 2017年・2019年 20周年以降 | 大喰らいの名が消える → 砂漠を進む巨体の姿だけが残る |
大きな力には、大きな代償がある。大砂蟲が印象に残ったのは、その約束が1枚のカードの上で、誰にでも分かる形で書かれていたからです。攻撃力10を出すか、手札を守るか。強いカードを引いた喜びが、そのまま次の悩みにつながっていました。
背界の旅団と、火の属性
私は1997年、小学5年生のときにモンコレに出会いました。初期のころに大砂蟲が出たので、火属性を頑張って集めていました。私が制作したカードゲーム『背界の旅団』は、そのモンコレで遊んだ体験から生まれたものです。
『背界の旅団』にも、火の属性があります。その頂点に立つ1枚が、極レアの「背界王ヴォルケーノ」です。めったに出ない大物を引き当て、その属性のカードを集め始める。あの頃の楽しさを、今の遊び方で味わえるようにしています。ゲームの世界設定やカードは独自に作ったもので、モンコレの公式作品・派生作品ではありません。詳しくは『背界の旅団』の公式サイトをご覧ください。
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