旗の数を数えるのが、私の癖だ。
城壁に、砦に、野営地の天幕に。どこへ行っても、まず旗を数える。一本でも多ければ、その夜はよく眠れる。
この頁を拾った誰かへ。私は盗人と呼ばれている。否定はしない。けれど、盗んだものの数より、返したものの数のほうが、ずっと多いはずだ。
オークの野営地で、道案内を雇った。
あの斥候は鼻で敵を見つけるという。私の香水でくしゃみをしたので、先払いした案内料は半分返してもらった。
野営地の旗は、一本。古い旗だが、よく手入れされていた。焼け焦げた端を、誰かが丁寧に繕ってある。土地を失っても、旗は手放さない。それでいい。
若いころの話を、ひとつだけ書いておく。
私は宝を探して、海の底の書庫へ忍び込んだことがある。宝はなかった。あったのは、水の中でも濡れない、古い本だけだった。
私は字を読むのが速い。あの夜は、それが少し恨めしかった。
旗の数を数える癖がついたのは、あの夜からだ。
風渡りの谷へ帰った。
谷の酒場の給仕は、鉤爪で杯を受け取り、翼で椅子を勧める。優雅な給仕だ。無銭の客を窓から吹き飛ばすところも含めて。
今夜、吹き飛ばされたのは鍋の修理屋だった。私は彼の分も払っておいた。谷の歌い手たちは、私を「あの方」と呼ぶ。むずがゆいので、やめてほしい。
土の国の森で、幻を見た。
幻のヘビは苔の上で昼寝をしていた。思っていたよりずっと丸く、そして美しかった。
起こさないように、そっと離れた。見つけたものを、全部持ち帰る必要はない。そこにあるべきものは、そこに置いておく。盗人にも、それくらいの作法はある。
街道の宿で、白い外套の魔道士と相席になった。見届け人のエリンゲだ。昔から、旅の空でときどき顔を合わせる。
行商人たちが、真珠の都の王の噂をしていた。王子を亡くされてから、お人が変わったそうだ。エリンゲは黙って杯を置いた。
夜更けに、風が、私の名を呼んだ。応える前にエリンゲが窓を閉めた。愛想を振りまいてはいけない相手はいるらしい。
どこへ行くのかと尋ねると、潮鳴りの浜へ、旗を持たぬ旅人を迎えに行くのだという。
旗を持たぬ旅人。うらやましい身の上だ。旗を持たない者は、旗を失わずにすむ。
真珠の都に寄った。
海の上に浮かぶ、美しい都だ。王は近ごろ、旅団戦で多くの旗を受け取っていると聞く。
いつもの癖で、城壁の旗を数えた。
一本も、増えていなかった。
受け取った旗は、どこへ行ったのだろう。
沼地で、リザードマンの軍旗長を見かけた。旗竿を肩に担いで、誇らしげに歩いていた。
なぜ手に持っている。旗はこの大地に打ち込まれてこそ意味のあるものだ。
……と、声をかけそうになって、やめた。彼らには彼らの作法がある。
今夜、借りていたものを返してもらいに行く。
貸した覚えはない。けれど、あれは私のものでもない。だから、持ち主のところへ届けるだけだ。
扉の鍵が開いていたら、それは私の腕のせいではない。この頁を読む者がいても、そこは書かないでおく。
噂が谷に届いた。浜の村で旗を託された、旗を持たぬ旅人が、今は王の旗手として各地の旗を集めているという。
エリンゲが迎えに行った、あの旅人だろうか。
王の旗手が、私の羽根を追ってくるらしい。紫と金の羽根は、わざと落としておいた。迷われては困る。
会ったら、ひとつだけ伝えよう。
旗は返すものだよ、旗手殿。
ハーレクインと旗手の旅団戦は、『背界の旅団』の物語 第6話「紫金の羽根」で遊べます。日記の頁の一部は、カードのフレーバーテキスト(カードに添えられた短い文)にも書かれています。
この記事を共有する