紙のカードは、一度印刷したら書かれた文字を直せません。
アプリのカードゲーム『ハースストーン』では、強すぎたカードの性能が、発売したあとで書き換えられます。
そして書き換えられたカードを持っていた人は、しばらくのあいだ、そのカードを作るのにかかる素材を全額受け取れます。
カードゲームは、紙のカードを手に持って遊ぶものとして生まれました。今ではパソコンやスマートフォンで遊ぶカードゲームも珍しくありません。ただ、アプリのカードゲームは、紙のカードをそのまま画面に移しただけのものではありません。カードが紙からデータになると、遊び方の何が変わるのでしょうか。
この記事で分かること
- ルールを覚えるのは人でなくてもよくなった:コンピューターがルールを処理するので、紙では管理しきれない効果のカードまで作れるようになりました。
- カードは「持ち物」から「使う権利」へ:アプリのカードは交換や売買が止められていることが多く、代わりに要らないカードを素材に変えて欲しいカードを作ります。
- カードの文字が変わる:紙では使用禁止にするしかなかった強すぎるカードを、アプリでは性能ごと直せます。
紙のカードゲームが、画面に移った
パックでカードを集め、自分で組んだデッキで戦うトレーディングカードゲームは、1993年にアメリカで発売された『マジック:ザ・ギャザリング』(マジック)から始まりました。そのマジックは、早くからパソコンの中にも移されました。2001年に試験版の配布が始まり、2002年に『Magic: The Gathering Online』(マジック・オンライン)として本格的に始まります。紙のマジックと同じカードを、インターネットを通じて世界中の相手と遊べるサービスです。
2014年3月11日には、ゲーム会社のブリザード・エンターテイメントが『ハースストーン』を出しました。紙のカードを持たない、最初から画面の中だけで遊ぶカードゲームです。その後、iPhoneやAndroidでも遊べるようになりました。
マジックも新しいデジタル版を作ります。2017年9月7日に『Magic: The Gathering Arena』(MTGアリーナ)を発表し、2018年に誰でも参加できる試験版、2019年に正式版を出しました。2021年からはスマートフォンでも遊べます。ポケモンカードにも、2024年10月30日に始まったスマートフォン向けの『Pokémon Trading Card Game Pocket』があります。
ルールを処理するのが、人からコンピューターへ
紙のカードゲームでは、ルールを覚えて正しく進めるのは遊ぶ人の役目です。カードの効果を読み、順番を守り、数字を数えます。間違えればそのまま進んでしまうので、大会には審判がいます。
アプリでは、この役目をコンピューターが引き受けます。マジック・オンラインでは、対戦はサーバー(運営会社のコンピューター)の上で行われ、ルールを処理する仕組みが正しい遊び方を守らせます。
この変化は、カードの中身まで変えました。『Pokémon Trading Card Game Pocket』のデッキは20枚で、紙のポケモンカードでは欠かせないエネルギーのカードを入れる必要がありません。「エネルギーゾーン」から毎ターン1つのエネルギーが自動で出てくるからです。デッキに何を入れるか、という一番大事な部分まで、アプリに合わせて作り直されています。
紙では作れないカードが生まれた
コンピューターがルールを処理すると、人の手では管理しきれない効果も作れるようになります。ハースストーンには、条件に合うカードを山札の外から無作為に生み出して手札に加える効果がたくさんあります。2015年には、英語で「Discover」と呼ばれる効果が加わりました。無作為に選ばれた3枚のカードから1枚を選んで手札に加えるものです。紙で同じことをするには、ありうる全部のカードを手元に用意して混ぜなければなりません。
MTGアリーナも、2021年12月に「アルケミー」という、画面の中だけで遊ぶ遊び方を始めました。そこでは、カードをその場で作り出して手札や山札に加える効果や、場所を移っても消えない変化をカードに刻む効果が使われています。どれも、どのカードに何が起きたかを最後まで覚えておく必要があり、紙のままでは扱いきれない効果です。
カードは誰のもの?交換と売買
紙のカードは、手に入れた人の持ち物です。友だちと交換することも、お店に売ることもできます。強いカードや珍しいカードに高い値段が付くのも、このためです。
アプリのカードは、ここが大きく違います。マジック・オンラインでは、デジタルのカードは持ち主の物ではなく、運営会社のものを使わせてもらっている扱いです。それでも、遊ぶ人どうしでカードを交換でき、大会の参加券が通貨の代わりになっています。さらに、デジタルのカードを1セット全部そろえると、手数料を払って紙のカード1セットと引き換えることもできます。紙の遊び方を、そのまま画面の中へ持ち込んだ作りです。
ハースストーンとMTGアリーナは、遊ぶ人どうしの交換を入れませんでした。代わりにハースストーンでは、要らないカードを壊して素材に変え、その素材で欲しいカードを作ります。MTGアリーナの開発者は、交換を入れると、遊んで手に入る報酬を思いどおりの量で配りにくくなると説明しています。
『Pokémon Trading Card Game Pocket』は、2025年1月に交換の機能を加えました。ただし交換できるのはフレンドどうしで、同じレア度のカードだけ。交換できるレア度も決まっていて、交換にはゲームの中の道具を使います。紙のように自由には交換させず、集める楽しみとのつり合いを取っているのです。
刷ったカードは直せない、データのカードは直せる
紙のカードは、一度印刷して配ったら、全員の手元のカードを書き換えることはできません。紙のマジックでは、強すぎるカードが見つかると、大会での使用を禁止することがあります。
アプリなら、カードの性能そのものを直せます。ハースストーンでは、性能を弱める調整(ゲームの言葉で「ナーフ」と言います)が入ると、そのカードを持っている人は、しばらくのあいだ、カードを作るのにかかる素材を全額受け取ってカードを壊せます。強いと思って作ったカードが弱くなっても、損をしないように作り直せるのです。
MTGアリーナのアルケミーでは、強すぎるカードや弱すぎるカードの数字を直して使います。紙と同じ遊び方の「スタンダード」では、紙と同じ状態を保つためにカードを直接は変えず、直したカードは名前の頭に「A-」を付けた別のカードとして扱います。同じゲームの中に、紙と同じ遊び方と、直せる遊び方を分けて置いているのです。
紙とアプリ、何が違う?
ここまでの違いをまとめると、カードが紙からデータになって変わったことは、大きく3つです。
| 紙のカードゲーム | アプリのカードゲーム |
|---|---|
| 人がルールを覚えて進める→審判がいる | コンピューターがルールを処理する→ルールの確認を任せられる |
| 手で扱える効果だけ→無作為にカードを生み出すのは難しい | 無作為に生み出す・ずっと覚えておく→アプリならではのカード |
| カードは持ち物→交換も売買も自由 | カードは使う権利→交換は止めるか、条件を付ける |
| 刷ったら直せない→使用を禁止する | 性能ごと直せる→持っている人には素材を返す |
アプリのカードゲームは、紙のカードゲームの写しではなく、ルールの番人と、カードの持ち主と、カードの文字の決まりが入れ替わった、別のゲームだと言えます。
『背界の旅団』は、アプリだから重ねられる
私が制作したカードゲーム『背界の旅団』も、iPhoneのアプリです。紙のカードゲーム『モンスター・コレクション』(モンコレ。モンスターの部隊で地図の上の土地を取り合う、1997年発売の国産カードゲーム)で遊んだ体験から生まれました。モンコレの魅力の一つが、相手の攻撃や魔法に割り込んで手を返し合う「対抗」でした。
『背界の旅団』では、攻撃に魔法で対抗し、その魔法に能力で対抗し、と宣言を交互に積み重ね、最後の一手から逆の順に解いていきます。解いている途中で、魔法を使うための「スペル枠」を持つモンスターが倒れて枠が足りなくなれば、まだ解いていない魔法は効果を出しません。どの宣言がどの順で、いくつの枠で出されたか。紙なら全員で確かめながら進める記録を、アプリが覚えて処理します。だから遊ぶ人は、次にどの手を重ねるかを考えることに集中できます。
相手がいなくても、CPUとの対戦で遊べます。オンライン対戦では、ランダムマッチのほか、6桁のあいことばで知り合いと遊べます。カードはパックで集め、ゲームの中で手に入る「竜の鱗」で欲しいカードと交換でき、余ったカードは竜の鱗に変えられます。紙のカードゲームで覚えた対抗の読み合いを、今の遊び方で味わえるようにしています。詳しくは『背界の旅団』の公式サイトをご覧ください。
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