カードの強さはどう調整する?マジック・ハースストーン・ワンピースの調整のしかた

マジック:ザ・ギャザリングは2024年、あるカードをデジタル版で禁止しました。理由は勝率ではなく、「4ターン目より前に終わる試合が、ほぼ倍になった」ことでした。
ハースストーンのアリーナでは、カードの文を1文字も変えずに、そのカードが出てくる確率だけを動かして強さをそろえます。
そして2012年の研究は、AIに「あるカードだけ使わせない」で戦わせ、その勝率でゲームのつり合いを測りました。

カードゲームを作ると、必ず強すぎるカードと弱すぎるカードが出てきます。開発する会社は、何を測って、どう判断して、どう直しているのでしょうか。公開されている開発者の説明と研究から、調整のしかたを並べてみます。

この記事で分かること

  • 発売前は、未来の環境を社内で遊ぶ:マジックは約1年先の環境を想定した社内リーグで試します。
  • 勝率だけでは決めない:多様なデッキが使われているか、相手が何もできずに負けていないかも見ます。
  • AIに「使わせない」と、カードの重さが分かる:1枚ずつ抜いて測るやり方は、研究にも同じ考え方があります。

発売前:1年先の環境を、社内で遊ぶ

マジック:ザ・ギャザリング(1993年にアメリカで生まれたトレーディングカードゲーム)には、プレイデザインという調整専門の社内チームがあります。このチームは「FFL(Future Future League)」という社内リーグで、約1年先に遊ばれるはずの環境を想定してデッキを組み、互いに対戦させます。

以前は半年先を想定していましたが、分かったことをカードへ反映するには遅すぎたため、さらに半年前倒ししたそうです。対戦の結果を定例の会議で話し合い、カードの数値や文を直し、直したカードをまた遊びます。発売前なら、カードそのものを直せるからです。

発売後:使われ方と、試合の中身を見る

発売した後は、カードの文は直せません(紙のカードの場合)。そこで、使い方を制限する「禁止・制限」で調整します。

マジックの禁止の発表では、勝率のほか、大会の上位に同じデッキがどれだけ並んだか、デジタル版でそのデッキがどれだけ使われているか、といった数字が理由に挙がります。ただ、最初に書いた2024年10月の禁止のように、勝率ではなく試合の中身を理由にすることもあります。4ターン目より前に終わる試合が倍になった、つまり相手が何もできないまま負ける試合が増えた、という理由です。

デジタルのカードゲーム『レジェンド・オブ・ルーンテラ』の開発者も、全カードを勝率50%にすることは目的ではないと語っています。勝率がふつうでも、1ターンで一気に倒されるような体験は直しました。プレイヤーに「このデッキと当たって不快だったか」を尋ねることもあります。

ハースストーン:カードの文ではなく、出る確率を動かす

ハースストーン(Blizzardが作るデジタルのカードゲーム)のアリーナは、その場で選んだカードでデッキを作って戦う遊び方です。ここでは、カードの文を変えずに強さをそろえています。

まず、大量の試合の記録から「どのカードを引いたら、どれだけ勝ちやすいか」を予測する機械学習のモデルを作ります。次に、どの職業(クラス)を選んでも予測の勝率が50%に近づくよう、各カードが選択肢に出てくる割合を計算し直します。そのとき、次の3つの決まりを守ります。

  • 1回の変更は、元の値の±30%まで
  • 強いカードの順位は崩さない
  • 出やすくした分と出にくくした分の合計をゼロにする

カードを作り直さずに、出会う回数で調整する。デジタルのゲームだからできる方法です。

Marvel Snap:すぐ直さず、まず「監視リスト」

スマホのカードゲーム『Marvel Snap』の開発者は、カードごとに「引いたときの勝率」「人気」、デッキの型ごとに「環境全体への勝率」「使われる割合」「相性」を見ていると説明しています。

それぞれの数字に許容できる範囲を決めておき、外れてもすぐには直しません。まず監視リストに入れて話し合い、十分な期間の記録で外れていると確かめてから手を入れます。直すときも、ただ弱くするのではなく「遊んで楽しくなる形」を探す、といいます。

日本のカードゲーム:いちばん大事なのは多様性

日本のカードゲームは、調整の数値をほとんど公表していません。そのかわり、何を大事にしているかは公式に書かれています。

ONE PIECEカードゲーム(漫画『ONE PIECE』のカードゲーム)は、特定のリーダーを使ったデッキの勝率、大会での成績、大会に参加したデッキの割合、今後の環境への影響を総合して判断し、いろいろなリーダーで遊べなくなると考えたときに禁止・制限を行う、としています。

デュエル・マスターズ(タカラトミーのカードゲーム)は「殿堂入り」(デッキに1枚まで)、「プレミアム殿堂」(1枚も入れられない)などの段階で使い方を絞ります。ポケモンカードゲームにも、強いカードに点数を付けて、デッキの合計点を制限する遊び方(殿堂レギュレーション)があります。どれも、カードを消すのではなく、使える量を減らす方法です。

研究:AIに「使わせない」で、重さを測る

人が何千回も遊ぶ前に、プログラムで欠点を見つける研究もあります。

2012年、ワシントン大学のジャフィたちは「制限付きプレイ」という方法を発表しました。ふつうに指すAIと、「このカードは使わない」「この手は必ず選ぶ」「でたらめに指す」などの制限を付けたAIを戦わせ、勝率の差を見ます。あるカードを使わなくてもほとんど負けないなら、そのカードは弱い。使わないと大きく負けるなら、ゲームがそのカードに頼りすぎています。この方法で、人の試遊に出す前に、作っていた教育用カードゲームの明らかな欠点を取り除きました。

2019年には、ハースストーンの試合を再現するプログラムで、代表的なデッキどうしの相性が50%に近づくカードの数値を、進化計算(よい案を少しずつ変えて残していく探し方)で探す研究も出ました。変えるカードの数をなるべく少なくする工夫もしています。

2020年には、囲碁や将棋で知られるAI「AlphaZero」に、ルールを少し変えたチェスを9種類、それぞれ一から自己対戦で学ばせ、強い者どうしならどんな試合になるかを比べた研究もあります。ルールを変えるたびに、AIを学び直させるという考え方です。

調整に使われる数字と、その落とし穴

数字分かること落とし穴
デッキの勝率今の環境で強いか使う人の腕と、相手の顔ぶれで変わる
使用率環境を占めているか人気や手に入りやすさでも変わる
引いたときの勝率手札に来た試合で勝てたか長い試合ほど多く引くので、重いカードは実力と違って出る
相性表何が何に強いか。対抗策があるか組み合わせが多いと試合数が足りない
多様性勝てるデッキの型がいくつあるか数だけそろっていても、つまらない環境はある
試合の中身何もできずに負ける試合の多さ勝率には出てこない

どの会社も、強いプレイヤーが好んで使うカードは勝率が高く出ること、カード1枚ではなくデッキ全体で見ないと誤ることに気をつけています。ルーンテラでは、あるカードが一部のデッキでは高い勝率なのに、全体では50%を下回っていた例が語られています。

『背界の旅団』のやり方と比べると

私が制作した『背界の旅団』では、学習済みAI(自己対戦で指し方を覚えたプログラム)どうしを戦わせ、デッキからカードを1種類ずつ抜いて勝率の変化を測っています(「1万6千試合の総当たりで、24の種族の強さを測った」)。これは、研究の「制限付きプレイ」の「このカードを使わない」とほぼ同じ考え方です。

違うのは、会社は発売後に、本物のプレイヤーの大量の記録を使えることです。AIどうしなら人の腕の差は入りませんが、そのかわり「AIが上手に使えないカードは弱く見える」という別の偏りが入ります。ほかの会社や研究から取り入れられそうなのは、次の5つです。

  • 自己対戦の記録から「引いたときの勝率」を出す。抜く実験より安く、毎回取れます。
  • デッキどうしの相性表から、対抗策のないデッキがないかを見る。
  • 早い巡で決着した試合の割合のように、「何もできずに負けた」を数える。
  • 弱いAIと強いAIの両方で測り、腕の差で強さが大きく変わるカードを見分ける。
  • 許容範囲を決めて監視リストを作り、少ない試合数ではすぐに直さない。

調整のしかたのまとめ

ゲーム主に見るもの直し方
マジック社内リーグ、大会の上位、試合の早さ発売前はカードを直す。発売後は禁止・制限
ハースストーン(アリーナ)引いたカードと勝つ確率の予測カードが出る確率を±30%の範囲で動かす
Marvel Snap引いたときの勝率、人気、デッキの型ごとの成績監視リストに入れ、確かめてから数値を変える
ルーンテラデッキの勝率、遊んだ人の不快さ勝率がふつうでも、不快な体験は直す
ワンピースなど日本のカードゲーム勝率、大会の成績と参加の割合、多様性禁止・制限、殿堂など使える量を絞る
研究制限を付けたAIとの勝率の差人の試遊の前に欠点を見つける

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