アントは、20の種族の中で最下位でした。
1枚の生命力を1から2へ、もう1枚にスペル枠を1つ。変えたのはそれだけで、アントは2位まで跳ね上がりました。
結局、採ったのは生命力の方だけです。
私が制作した『背界の旅団』では、種族ごとの強さを、学習済みAIどうしの総当たりで測りながら調整しています(測り方は「1万6千試合の総当たりで、24の種族の強さを測った」)。弱い種族を上げようとして足した小さな変更が、なぜここまで効いたのか。そして、変更を1つずつ分けて測ると何が見えたのかを書きます。ここに書く調整は開発中の試算で、まだ配信していません。
この記事で分かること
- 生命力の「1」は、ただの1ではない:1ダメージで倒れるかどうかの境目をまたぐと、相性が丸ごと変わります。
- 2つ同時に変えると、どちらが効いたか分からない:分けて測ると、片方だけでも最下位から10位まで上がっていました。
- 弱点は、わざと残す:いちばん差が小さくなる案を選び、苦手な相手は苦手なままにしました。
アントは、数で押す種族
アントは、火の属性の小さなアリの種族です。レベル1のアントをたくさん並べ、数で押して勝ちます。並ぶ数が増えるほど、仲間の力が上がっていきます。
- シールド・アント:自分のアントの生命力を+1する(戦闘時)。
- プリンス・アント:アントが2体以上いれば、4ダメージを与える。
- マザー・アント:種族をまとめるロード。アントの数×3だけ力が上がる。
強さを比べる数は「得点」で書きます。組み合わせ用の4種族(ドラゴン・ジャイアント・ビースト・スピリット。ほかの種族のデッキに混ぜて使う種族)を除いた20種族を相手に、勝ちを1、引き分けを半分として数えた平均です。0.5がちょうど五分で、調整前のアントは0.385、20種族中20位でした。
最下位の理由:生命力1の群れは、全体攻撃で消える
レベル1のアント3種(シールド・スカイ・ワーカー)は、どれも生命力が1です。生命力は、何ダメージ受けると倒れるかを表す数です。1しかないので、相手全体に1ダメージを与える効果を1回受けるだけで、並べた群れがそっくり消えます。
アントがいちばん苦手な3種族は、どれも相手全体へのダメージを持っていました。
| 苦手な相手 | アントの得点 | 全体へのダメージ |
|---|---|---|
| スネーク | 0.18 | ヒドラ(相手全体に1ダメージ) |
| バードマン | 0.25 | 裂空の渦(風の魔法) |
| シーマン | 0.28 | 海神の怒濤(水の魔法) |
守り役のシールド・アントも、ここでは間に合いません。生命力+1が効くのは【戦闘時】、つまり戦闘が始まってからです。範囲のダメージは、その前に飛んできます。
2つ足したら、2位まで跳ね上がった
そこで、2つの変更を同時に試しました。
- プリンス・アント(レベル2、力4・生命力1)の生命力を1から2へ。
- シールド・アントに、火のスペル枠(火の魔法を唱えるための枠)を1つ。
アントの得点は0.385から0.575へ、+0.190。順位は20位から2位になり、1位のシーマン(0.586)とほとんど並びました。ほかの種族は、アントに負ける分だけ、そろって0.01〜0.02下がりました。
最下位を真ん中あたりまで引き上げるつもりの変更で、上から2番目まで来てしまったのです。
1つずつ分けて測る
2つ同時に変えると、どちらがどれだけ効いたのかが分かりません。そこで、それぞれ片方だけを入れた形でも、同じ総当たり(全16,560試合)を流しました。
| 変更 | 得点 | 順位 | 上がり幅 |
|---|---|---|---|
| 調整前 | 0.385 | 20位 | — |
| 生命力2だけ | 0.476 | 13位 | +0.091 |
| 火の枠だけ | 0.509 | 10位 | +0.124 |
| 両方 | 0.575 | 2位 | +0.190 |
大きかったのは、スペル枠の方でした。枠1つだけで、生命力を上げるより大きく上がっています。片方ずつの上がり幅を足すと0.215で、両方入れたときの0.190より大きくなります。2つの効き目は、一部が重なっていました。
なぜ、こんなに効いたのか
理由は、まだ見込みです。
スペル枠は、1手目から何枚でも出せるカードに付いた。シールド・アントは、レベル1で、戦闘中に手札から加わる「即時召喚」ができ、デッキに何枚でも入れられます。そこに火の枠が付くと、デッキに入っている火の魔法8枚を、ゲームの始めからすぐ撃てるようになります。枠1つでも、付けたカードが軽いほど、何回も使われます。
生命力の1→2は、境目をまたぐ。生命力が1から2になるのは、数字の上では1つ増えただけです。でも、ヒドラの全体1ダメージで倒れるか倒れないかが、ここで入れ替わります。ダメージが1の効果がある限り、生命力1と2の差は「半分」ではなく「残るか、消えるか」です。
相性はどう変わったか
アントが苦手だった3種族と、もともと得意だったエンジェルを相手にした、アントの得点です。表の「生命力」は生命力2だけ、「火の枠」は火の枠だけを入れた形です。
| 相手 | 調整前 | 生命力 | 火の枠 | 両方 |
|---|---|---|---|---|
| スネーク | 0.18 | 0.28 | 0.35 | 0.34 |
| バードマン | 0.25 | 0.35 | 0.30 | 0.45 |
| シーマン | 0.28 | 0.44 | 0.47 | 0.54 |
| エンジェル | 0.58 | 0.75 | 0.72 | 0.78 |
両方を入れると、シーマンには勝ち越すようになり、バードマンにもほぼ五分まで迫りました。生命力2だけなら、スネークとバードマンにはまだ大きく負け越します。
採ったのは「生命力2」だけ
どの案を採るかは、アントの順位だけでなく、20種族全体のばらつきでも比べました。20種族の得点の標準偏差(どれだけ散らばっているかを表す数。小さいほど、種族どうしの強さが近い)です。
| 案 | 20種族の得点の標準偏差 |
|---|---|
| 調整前 | 0.057 |
| 生命力2だけ | 0.051(いちばん小さい) |
| 火の枠だけ | 0.053 |
| 両方 | 0.056 |
両方を入れると、アントが上に飛び出したぶん、ばらつきは調整前とほとんど変わりません。いちばん種族どうしの差が小さくなったのは、生命力2だけの案でした。
そこで、プリンス・アントの生命力を2にする変更だけを採りました(次の版で入れる予定です)。アントは真ん中より少し下の13位になり、スネークとバードマンは苦手なまま残ります。どの種族にも苦手な相手がいて、流行りに合わせてデッキを選ぶ意味があるほうが、遊びは豊かになると考えています。火の枠は採りませんでした。
残る課題もあります。どの案でも、アントはエンジェルとトントゥ(光の種族)に大きく勝ち越します。この2つの種族は、アントとは別に調整が要ります。
まとめ
| 分かったこと | この調整での例 |
|---|---|
| 小さな数字が、強さを大きく動かす | カード2枚の変更で、20位→2位 |
| 境目をまたぐ1は、ただの1ではない | 生命力1→2で、全体1ダメージで倒れなくなる |
| 能力は、付けるカードの軽さで効き方が変わる | 1手目から何枚でも出せるカードに火の枠 |
| 変更は1つずつ分けて測る | 枠だけで10位、生命力だけで13位 |
| 全体のばらつきで選ぶ | 標準偏差がいちばん小さい「生命力2だけ」を採用 |
カードゲームの会社が強さをどう調整しているかは「カードの強さはどう調整する?マジック・ハースストーン・ワンピースの調整のしかた」にまとめています。
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