マジック:ザ・ギャザリングの最初のセットには、山札から好きなカードを1枚探して手札に加える呪文が、わずか2マナで入っていました。
その呪文《悪魔の教示者》(Demonic Tutor)は、30年以上たった今も、ある大会形式ではデッキに1枚しか入れられず、別の形式では1枚も入れられません。
そして英語圏のプレイヤーは、山札から探すカードのことを、この呪文の名前から「チューター」と呼んでいます。
カードゲームでは、山札をよく切ってから上から引くので、欲しいカードがいつ来るかは分かりません。ところが、山札の中身を見て、好きなカードを取り出せるカードがあります。日本のプレイヤーは、これを英語の「探す(search)」から「サーチ」と呼びます。カードを1枚手に入れるだけなのに、山札から探せると、なぜそんなに強いのでしょうか。そしてカードゲームは、その強さをどう縛ってきたのでしょうか。
この記事で分かること
- サーチは「同じカードを増やす」のと同じ:何でも探せるカードを4枚入れると、1枚しか入れていない切り札を、5枚入れたのと同じ確率で手札に呼べます。
- 何でも探せるカードは、今も使用が縛られている:マジックやデュエル・マスターズでは、何でも探せる呪文の多くが、デッキに1枚まで、あるいは使用禁止になっています。
- 縛り方はゲームごとに違う:探せる種類を絞る、手札を捨てさせる、手札に来るのを遅らせる、上から数枚だけ見せる、など作り手の工夫が分かれています。
サーチとは、山札から欲しいカードを取り出すこと
サーチは、カードの効果で山札の中身を見て、条件に合うカードを選び、手札や場に移すことです。英語圏のマジック・ザ・ギャザリング(1993年にアメリカで生まれたトレーディングカードゲーム)では「チューター(tutor、家庭教師の意味)」と呼ばれます。最初のセットに入っていた《悪魔の教示者》の英語名が「Demonic Tutor」で、そこからプレイヤーのあいだで呼び名として定着しました。のちに出た山札から探す呪文にも、《吸血の教示者》(Vampiric Tutor)、《神秘の教示者》(Mystical Tutor)のように、同じ「Tutor」の名前が付けられていきます。
《悪魔の教示者》は、1993年8月のマジックの最初のセットに入っていた黒の呪文です。2マナを払うと、山札から好きなカードを1枚探して手札に加え、山札を切り直します。何を探すかに条件はありません。デッキの中で一番強いカード、その場で一番必要なカードを、そのまま手にできます。
なぜ強いのか:1枚の切り札が「5枚」になる
サーチの強さは、欲しいカードを引ける確率で考えると分かりやすくなります。デッキに1枚だけ入れたカードを最初の手札で引ける確率は、手札の枚数÷デッキの枚数です。マジックの60枚のデッキで7枚の手札なら、7÷60で約11.7%しかありません。計算の考え方はデッキはなぜ40枚・60枚?で詳しく書きました。
ここに、何でも探せるカードを4枚足したとします。すると、切り札そのものか、切り札を探してくるカードのどちらか1枚を引けばよくなります。つまり「当たり」が5枚に増えます。何枚か入れたカードを1枚以上引く確率は、1から「1枚も引かない確率」を引いて求めます。
1枚以上引く確率 = 1 −(当たり以外から7枚を選ぶ組み合わせ)÷(60枚から7枚を選ぶ組み合わせ)
| 60枚・手札7枚のデッキ | 当たりの枚数 | 初手で1枚以上ある確率 |
|---|---|---|
| 切り札1枚だけ | 1枚 | 約11.7% |
| 切り札を4枚入れる | 4枚 | 約39.9% |
| 切り札1枚+何でも探せるカード4枚 | 5枚 | 約47.5% |
| 切り札4枚+何でも探せるカード4枚 | 8枚 | 約65.4% |
何でも探せるカードは、デッキにあるあらゆるカードの「追加の1枚」として働きます。しかも何を探すかは、その場の状況を見てから選べます。山札を切って偶然に任せるというカードゲームの土台を、サーチは一枚で崩してしまうのです。
マジック:何でも探せる呪文は、今も1枚まで
マジックには、遊べるカードの範囲が違ういくつもの大会形式があります。そのうち、昔からのほぼすべてのカードを使える「ヴィンテージ」では、強すぎるカードを「制限カード」として、デッキに1枚までしか入れられないようにしています。少し範囲の狭い「レガシー」では、同じようなカードを「禁止カード」として、1枚も入れられないようにしています。
2026年10月の時点の公式の禁止・制限リストでは、《悪魔の教示者》《吸血の教示者》《神秘の教示者》はどれも、ヴィンテージで制限カード、レガシーで禁止カードです。
代償を付けても、まだ強い
《吸血の教示者》は、1マナで何でも探せる代わりに、2点のライフを失い、探したカードは手札ではなく山札の一番上に置かれます。次に引くまで待つ必要があり、ライフも払います。《神秘の教示者》は、探せるのが「インスタント」と「ソーサリー」という種類の呪文に限られ、これも山札の一番上に置きます。どちらも《悪魔の教示者》より不利な条件を付けたカードですが、それでもヴィンテージでは1枚まで、レガシーでは禁止です。「好きなカードを確実に手に入れられる」こと自体が、それだけ大きな力なのです。
探したら、山札を切り直す
《悪魔の教示者》のように、山札から探す効果の多くは、探したあとに山札を切り直すところまでが一続きの効果になっています。マジックの総合ルール(細かな裁定を定めた公式の規則集)では、山札のような隠れた場所から「何か特定の種類のカード」を探すとき、そのカードが山札にあっても「見つからなかった」ことにしてよい、とも決めています。条件付きのサーチには、空振りもありうるのです。
遊戯王OCG:探せる種類と、届くまでの時間で縛る
遊戯王OCG(漫画『遊☆戯☆王』から生まれたカードゲーム)は、デッキから特定のカードを手札に加える効果がとても多いゲームです。同じ名前のカードはデッキに3枚まで入れられますが、公式の「禁止・制限カード」の一覧で、カードごとに0枚(禁止)、1枚(制限)、2枚(準制限)に絞られます。
2026年10月1日に更新された一覧では、サーチの効果を持つカードが制限カードに並んでいます。たとえば《増援》は、デッキからレベル4以下の戦士族のモンスター1体を手札に加える魔法カードです。《テラ・フォーミング》は、デッキからフィールド魔法カード1枚を手札に加えます。どちらも探せる種類がはっきり絞られていますが、それでも1枚までです。
面白いのは《封印の黄金櫃》です。デッキから好きなカードを1枚選べますが、すぐには手札に来ません。いったんゲームから取り除いておき、手札に加わるのは、使ったあと2回目の自分のスタンバイフェイズ(自分の番の始まりの段階)です。何でも探せる代わりに、届くまでの時間で縛っているのです。このカードも制限カードです。
デュエル・マスターズ:探す呪文は第1弾から、強すぎれば殿堂へ
デュエル・マスターズ(2002年5月に第1弾が出た、タカラトミーのカードゲーム。デュエマ)は、40枚ぴったりのデッキで戦い、同じ名前のカードは4枚まで入れられます。その第1弾に、もう山札から探す呪文が入っていました。《ディメンジョン・ゲート》は自然文明の3コストの呪文で、山札からクリーチャーを1枚探して相手に見せ、手札に加えたあと、山札をシャッフルします。探せるのはクリーチャーだけで、呪文は探せません。このカードは今も、デッキに4枚まで入れられます。
強すぎるカードは、公式の「殿堂レギュレーション」で縛られます。「殿堂入り」のカードはデッキに1枚まで、「プレミアム殿堂」のカードは1枚も入れられません。2026年8月10日から適用の一覧では、《次元の霊峰》が殿堂入りです。2コストの呪文で、山札を見て多色クリーチャー(複数の文明を持つクリーチャー)を1体選び、手札に加えられます。探せる種類は《ディメンジョン・ゲート》より狭いのに、1コスト安く、こちらは1枚までです。
プレミアム殿堂には《ヒラメキ・プログラム》があります。自分のクリーチャーを1体破壊し、山札の上から、そのクリーチャーよりコストが1多いクリーチャーが出るまでカードを見せ、そのクリーチャーをそのままバトルゾーン(戦う場)に出せる呪文です。最後に山札をシャッフルします。手札に加えるのではなく、山札から直接場に出すサーチで、デッキに1枚も入れられません。
ポケモンカードとONE PIECE:条件を付け、見る枚数を絞る
ポケモンカード:条件と代償を付けた道具にする
ポケモンカードゲームは、サーチを禁止で縛るより、条件と代償を付けて、多くのデッキで使える道具にしているゲームです。代表がポケモンを探す「ボール」のグッズ(自分の番に何枚でも使える道具のカード)です。
- ネストボール:山札から探せるのは、進化していない「たねポケモン」だけです。しかも手札には加わらず、そのままベンチ(控えの場)に出ます。
- ハイパーボール:どのポケモンでも探せますが、使うには自分の手札を2枚トラッシュ(捨て札)しなければなりません。探したポケモンは相手に見せてから手札に加えます。
探せる種類を絞るか、手札という代償を払わせるか。強さと引き換えに何かを差し出させる形です。そしてどちらも、最後に山札を切ります。ポケモンカードでは、山札の中身を見たら切り直すのが原則で、山札を切る効果を持つカードはとても多くあります。
ONE PIECEカードゲーム:上から数枚だけ見せる
ONE PIECEカードゲーム(漫画『ONE PIECE』のカードゲーム)の探す効果は、多くが「デッキの上から5枚ほどを見て、条件に合うカードを1枚まで手札に加え、残りは好きな順番でデッキの下に置く」という形です。欲しいカードが上の数枚になければ、何も手に入りません。確実さを削る縛り方で、山札を切り直す手間も減ります。その仕組みはワンピースカードの工夫で書きました。
サーチの縛り方は、こう分かれてきた
| 縛り方 | 例→何を抑えるか |
|---|---|
| 枚数を絞る | マジックの制限・禁止、遊戯王の制限カード、デュエル・マスターズの殿堂入り・プレミアム殿堂→同じサーチを何度も使えないようにする |
| 探せる種類を絞る | 《神秘の教示者》、《増援》、《ディメンジョン・ゲート》、ネストボール→切り札そのものを探せないようにする |
| 代償を払わせる | 《吸血の教示者》のライフ、ハイパーボールの手札2枚→探すたびに何かを失わせる |
| 届くのを遅らせる | 山札の一番上に置く、《封印の黄金櫃》→探してすぐには使えないようにする |
| 見る枚数を絞る | ONE PIECEカードゲームの上から数枚→確実に見つかるとは限らなくする |
| 山札を切り直す | 《悪魔の教示者》、《ディメンジョン・ゲート》、ボールのグッズ→探したあとの山札を、また偶然に戻す |
どの縛り方も、サーチが持つ「偶然を消す力」を、どこまで残すかの調整です。何でも、すぐに、確実に、何度でも探せるカードは、ゲームから運の揺れを消してしまいます。条件、代償、遅れ、枚数のどれかを削ることで、引きの偶然とデッキ作りの工夫が両立するように整えられてきました。
『背界の旅団』は、探さずに引きを安定させる
私が制作したカードゲーム『背界の旅団』には、山札からカードを探すカードがありません。カードを引く効果を持つカードもありません。このゲームの醍醐味は、軍団を率いて土地を進む進軍と、相手の一手に一手を返す対抗合戦です。だから、山札を掘って欲しいカードを集めることより、毎回の手札を切らさず、進軍と対抗に手を使えることを大事にしました。引きの安定は、カードではなくルールの側で作っています。
1つ目はデッキの枚数です。デッキは30枚で、手札は6枚までそろいます。1枚だけ入れたカードが6枚の手札にある確率は、6÷30で20%。同じカードを3枚入れれば約50.1%で、60枚のデッキに4枚入れたときの約39.9%より引きやすくなります。
2つ目は手札の補充です。手番が終わると、手札が6枚になるまで山札から補充されます。1枚ずつ引くのではなく、使った分だけ戻ってくるので、カードを使い切っても次の番には手札がそろいます。
3つ目は最初の手札です。魔法は戦場にいるモンスターがいなければ唱えられないため、最初の手札が魔法だけだったときは、自動で配り直します。詳しくはマリガンとは?で書きました。
どのカードを引くかは偶然に任せたまま、引いたカードで何ができるかが毎回大きく揺れないようにする。欲しい1枚を探せない代わりに、手元の6枚から、どの仲間を呼び、どこへ進むかを考えるのが『背界の旅団』の対戦です。詳しくは『背界の旅団』の公式サイトをご覧ください。
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